法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『NHKスペシャル』解かれた封印〜米軍カメラマンが見たNAGASAKI〜

全ては、屋根裏の緑のトランクから始まった。


すでにApeman氏のブログで要点を押さえた紹介が書かれているので、少し変わった視点からの感想を。
「解かれた封印〜米軍カメラマンが見たNAGASAKI〜」 - Apeman’s diary
上記コメント欄でも指摘されているが、様々な意味でテレビ朝日の『原爆63年目の真実』*1を思い出した。占領軍として被爆地を撮影した者、米軍の放射能問題軽視から受けた被害、そして離婚という戦後まで、一部と三部で描かれた米軍兵士二人の戦後史と奇妙なほど重なる。
占領地の人々を直視することで敵を人と認めること。原爆による自身への放射能障害疑惑をいだき、加害と被害の両側面に立つことで広がる視野。そして軍隊の構成員に対する説明不足、人権軽視。
特にジョー・オダネルの場合は、放射線障害が戦後しばらくして発現したため、二人の子供を生み育てた平和な家庭が突如として崩壊してしまった。せめて不幸中の幸いなのか、息子は父の遺志を受け継いでいる。しかし、戦争の傷痕が長くひそむ場合があることは記憶しておきたい。


今回のNHKスペシャルには、戦争の後遺症を負った家族という面もある。
ジョーに全米から批判の手紙が殺到していた時期に、ただ一つだけ反論した手紙があり、それが息子のタイグからによるものだったこと。ジョーの行動が理解できなくて離婚した妻エレンのこと。そしてタイグに手紙が届いたこと……
タイグは、父の写真をネットで公開する活動を続けている*2。批判する意見も来る一方で、父の時代とは異なり激励の意見も来る。その中には、離婚した母エレンからの手紙もあった。

お父さんの写真のことで いそがしくしていると聞きました
私は ジョーが亡くなってから 彼の行動の意味を考えています
しかし私にはまだ ジョーがなぜトランクを空け母国を告発したのか
わからないままです


ただ これだけはたしかです
彼の写真が多くの人に影響を与えていること そして
その写真をひきついだあなたを ジョーが 誇りに思っていることです

私がつけくわえることは何もない。
元米軍カメラマン、ジョー・オダネルも言葉を残した。

たとえ小さな石であっても
波紋は広がっていく


それは少しずつ広がり
いつか陸に届くはずだ


アメリカという陸にも
届く日がくる


誰かが続いてくれれば
波紋はさらに広がっていく


そしていつか 誰もが平和を
実感できる日が来ると 信じる

ジョー・オダネルのいう小石は、おそらくジョー自身ではない。きっと彼の心に焼きついた被爆者の姿が、最初の一投だったのだ。その波紋は、43年の時間が必要だったが、たしかにジョーへ届いた。


物語として読み取ることの危険性に留意してなお、ここには大きな感動がある。
直立不動の少年から米軍カメラマンへ、米軍カメラマンから息子へ、波紋が広がっていけば、いつか陸地に届くかもしれない。それは今でこそないかもしれないが……