法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

産経新聞は「沖縄」に何をしたいの? 何をしてほしいの?

沖縄ではほとんど読まれていないとはいえ、仮にも全国紙が社説として公開する文章なのか。文字列の最初から最後まで目をおおわんばかりの惨状だ。
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/110309/plc11030902480002-n1.htm

 拝啓 沖縄のみなさまへ。東京は弥生に入っても雪が降りましたが、やんばるのつつじは、もう見ごろでしょうねえ。寒がりの抄子にとってうらやましい限りです。

 ▼さて、メアという米国務省の偉い人がひどいことを言ったようですね。「沖縄の人々は怠惰でゴーヤーも育てられない」と間違った情報を学生に教え、「沖縄の人々は日本政府に対するごまかし、ゆすりの名人だ」と罵(ののし)ったとか。

ここまでは、まだいいと思う。しかし具体的にメア日本部長への反論を始めたところから、いきなり雲行きが怪しくなる。

 ▼「ウチナー時間」といわれるほど時間に大らかでも、離婚率が日本一でも怠惰といわれる筋合いはありません。第一、和名でツルレイシというゴーヤーは、宮崎などでも盛んに栽培されていますが、沖縄が出荷量日本一なのは変わりません。

メア日本部長が言及していないらしい「ウチナー時間」「時間に大らか」を、わざわざここで持ち出す意味がよくわからない*1
ただし好意的に見れば、たとえ「時間に大らか」という主張が今後に出されても、先んじて怠惰という主張の裏づけにならないことを指摘しておくと読めなくはない。だから、離婚率は常に米国より日本が低いことや沖縄県も米国よりは低いことを、あえて指摘したり皮肉ったりしないことも間違ってはいない*2
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しかし、長く「ゴーヤー」という言葉で広まって「ニガウリ」という名も有名な植物に対して、わざわざ和名を記載しているところが不思議といらだたしく感じた。沖縄と日本を切断する発想しかない産経抄子の内面が露呈したように感じたからだ。気のせいだと思いたかった。

 ▼「ごまかし、ゆすりの名人」に至っては、何を指しているのかわかりません。まさか、政府が北部振興策や基地対策と称し、湯水のごとく札束をばらまいていることではないはずです。メアという人は何にも知らない素人ですね。

ここから産経抄は明らかに日本政府批判へ矛先を変える。「湯水のごとく札束をばらまいている」という表現が賞賛の意味を持たず、メア日本部長にかこつけて皮肉っていることは明らかだ。
しかし、ここでもまだ北部振興策や基地対策でごまかしてい政府への批判が主で、ごまかしを押しつけられている沖縄への批判は行ってはいないと読むことはできなくはない。

  ▼と思っていたら、20年近くも日本に住み、沖縄で総領事を3年務め、かりゆしまで着ていたとか。沖縄でよほどいやな経験をしたか正直者かのどちらかでしょう。

ここから全く意味がわからない。前段からの繋がりでいえば、たかだか居住経験の長さや現地の文化にふれたことをもって、メア日本部長が「素人」ではないと証しを立てたつもりなのだろう。別に植民地主義者であることの反証にならない程度の話でしかないが。
そして「沖縄でよほどいやな体験をした」という憶測ならば個人的な体験や狭い視野を全体へ適用する愚かさへの批判と読みうるが、残りの選択肢として「正直者」と書くなどとさすがに予想できなかった。え、何、ここに来てメア日本部長の沖縄評価を正直者の言葉として全肯定するの?

でも、もっと重要なのは「改憲されていたら、米国の国益を増進するため日本の土地を使うことができなくなっていた」という発言です。
  ▼彼の理屈では、日本には戦力と交戦権を否定した憲法9条があるので、自衛隊だけで国を守れず、米軍に頼らざるを得ない、というわけです。悔しいけれど当たっています。地元紙には書いてありませんが、米軍基地をなくす早道は憲法改正しかありません。さあ、沖縄から憲法を変えましょう。デモもできない隣の国が変な気を起こさぬ前に。敬具。

「悔しいけれど当たっています」という文章が少しも悔しいように見えない*3。きっと産経抄子は顔真っ赤だろう、ホクホクというオノマトペが聞こえるような意味で。イラク戦争などで見せたように軍事面における対米追従を隠さない産経新聞のことだから、たとえ憲法改正しようと米軍基地をなくすべきという主張をすることはまずないだろう。現実に考えても、憲法改正が即座に日米安保条約の見直しに繋がるはずもない。むしろ米軍が行動しやすくなるだけだろうと思う。
「デモもできない隣の国が変な気を起こさぬ前に」などと臆面もなく主張する神経もすごい。歴史教科書検定批判のため沖縄で行われた集会に対して、大きく報じないまでならまだしも、その規模を過小評価しようと画策していた産経新聞がどの面をさげて書いているのだか。
◆ 美しい壺日記 ◆ 11万人参加の沖縄県民大会、産経だけ報道せず
◆ 美しい壺日記 ◆ 主催者発表の数字


何にしても、メア日本部長……すでに更迭の予定だが*4……を「沖縄でよほどいやな経験をしたか正直者かのどちらか」と評した時点で、もはや申し開きもできまい。
しかし日本には言論の自由があるのだし、産経新聞が発行をやめるべきとは主張しない。むしろ、ほとんど購読者がいない沖縄県でも、今後は産経新聞が広く読まれるようになってほしいと思うばかりだ。

*1:メモ全文を報じる記事には、少なくとも沖縄県は時間感覚が異なるといった主張は入っていない。http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-174366-storytopic-3.html

*2:離婚率の高さは、離婚者への偏見が少ないためという考えも不可能ではない。逆にいうと、メア日本部長が離婚率の高さを怠惰の理由として提示したこと自体が、米国らしくないなと感じた。沖縄県に対してでなくても離婚率の高さを国や地域への批判理由に使えば、きちんとした社会ではそれだけで不祥事になるだろう。

*3:米国の利益のために沖縄の土地を使っているという言質は、けっこう重要なことだと思うが。

*4:http://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye4669767.html