法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『あの日、僕らの命はトイレットペーパーよりも軽かった−カウラ捕虜収容所からの大脱走−』

日本テレビの2時間ドラマ。タイトル通り、オーストラリアのカウラ収容所で起きた大規模な脱走事件をモデルにしている。
映画『大脱走』等とは違い、相対的に悪くない環境において、兵士達が自らをトイレットペーパーより軽い存在と位置づけで暴走した脱走事件。


全体としては、期待した以上の出来。
ほぼ同じ閉鎖された舞台ながら、いずれ悲劇が起こると予期される作りなので、2時間超の放映時間なわりには、だれずに見ていられた。
収容所のセットも手が込んでいて、広く見せられてもいて、上々。特撮番組で見たような風景が出てきたり、樹木等の端々で日本国内セットとばれているが、充分に我慢できる範囲。
ただ、当時の兵士が脱走にいたった心情を、戦陣訓を連呼する等の台詞ばかりで表現していたところが弱い。冒頭の敗走を念入りに描写して、その際に日本軍内の捕虜に対する意識を描くべきだったと思う。
あいかわらず主人公となる日本兵達の毛髪が丸刈りでない問題は、結果的に捕虜収容所が特殊で自由な環境かのように描けている。逆に、冒頭の逃避行中で髭が伸びたりしている姿を見せており、ドラマの過半もその延長と脳内補完できなくもない*1


オーストラリアロケを活用し、ロングショットで老いた主人公の寂寞感を演出する結末が悪くないので、ドラマ全体の印象が良い。現代の視聴者を意識して、現在の主人公を描くというありきたりな導入も、結末で活かされている。
もっと喜劇として描いた方が悲劇性が浮き出たと思うのだが、それは好みの問題かな。

*1:もちろん、細部を見ればやはり一貫して考証的に誤った髪型ではあるが。