法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『兵隊やくざ 脱獄』

シリーズも4作目を数え、監督は森一生へ交代。脱走を重ねた主人公2人は軍刑務所へ収監される。
結末で脱走しては続編の冒頭で捕まる展開が、さすがに苦しくなってきた……と思っていたら、軍刑務所からも中盤で脱走、その直後に捕まるという急展開。ほとんど制作者側も自覚的なくり返しギャグとして処理している。
からくも命をひろった2人だが、もちろん無罪放免とはいかず、北端の最前線へ追いやられる。有田は上等兵から一等兵へ降格された。移動の途中で救った女郎と仲良くなりながら、ソ連満州の国境線で虐げられ続ける。水辺や草原の広さを切り取るカメラワークの多用が、いかにも森監督らしい。
このシリーズには珍しく脚本もしっかりしていた。刑務所での出会いや出来事が、偶然にたよりつつも、ちゃんと国境線でいきてくる。


以下、ネタバレ注意。
終盤にいたり、刑務所で出会った兵士が隠していたヒスイと、主人公たちが途中で救った女郎が、明確な目標となる。上官と騙しあう複雑な展開も、争奪対象がはっきりしているから、見ていて混乱することはない。
そうしてたどりつくオチは、このシリーズで初めて明確に史実とつながるもの。ソ連軍が国境を越えてきて、事態が一気に混沌と化す。主人公たちが上官への反抗を決めた日は、ちょうど8月9日だったのだ。
戦場から逃げ出した上官から女郎を救い、自分達だけ逃げようとする将校をトラックからおろし、難民を乗せる主人公2人の活躍がすがすがしい。
そして女郎とともに帰国できる可能性をつかんだ大宮だが、自分たちを救った有田がとりのこされることに耐えられず、飛び下りてしまう。目の前に好いてくれる女性がいるところが、あえて大宮が有田を選択した重み、愛情の深さを感じさせられた*1

*1:ちなみに検索してみると、やはり『兵隊やくざ』をヤオイ的な視点で楽しんでいる人々もいるようだ。