法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『裸足の1500マイル』

オーストラリアでは1970年ごろまでアボリジニ同化政策がおこなわれていた。混血を進めて白人に近づけば幸福になるという理屈で、先住民の子供を隔離収容して教育を受けさせていたという。
隔離政策を象徴するように、大地を分断する長大なフェンスが映される。白人の家畜を守るため、白人が持ちこんだウサギを隔離するためのものだ。この映画の原題は『Rabbit-Proof Fence』。ウサギ隔離のフェンスという意味を持つ。
そして日本が満州事変をはじめた1931年、収容所から3人の少女が逃亡した。故郷までつづいているフェンスを目印に、3人は荒野を逃げつづけた。フェンスにそって歩いた距離1500マイルをメートル単位に直すと2400km。日本列島に直線距離であてはめると、北海道の最北端から沖縄県に達する。


社会性の強い作品で知られるフィリップ・ノイス監督による、2002年のオーストラリア映画。『戦場のメリークリスマス』等をプロデュースしたジェレミー・トーマス製作で、中国映画での仕事が多いクリストファー・ドイル撮影。
逃亡者の1人を母に持つ女性が発表した手記を原作とし、マイノリティによりそいながら、オーストラリア史の影を見つめた作品。国内においてオーストラリア・アカデミー賞で最優秀作品賞をふくむ各賞を受け、世界的にもエディンバラ国際映画祭の観客賞などに輝いた。


残念ながら、期待にこたえる作品だったものの、期待をこえる作品ではなかった。
このスタッフが史実にもとづいて、オーストラリア各地で撮影すれば、このような作品として完成するだろう……という予想を一歩も出ない。もちろん、知らなかった歴史を細かく学ぶことはできたし、空撮を多用した自然は雄大で美しいが、小さくまとまった作品という印象が残った。
まずいのが、わずか94分という題材に比べた尺の短さ。主人公が故郷で拉致されて、収容所に入れられて逃亡するまで、はじまってから30分近くたっている。実質的な逃亡劇は1時間に満たない。
もちろん故郷の生活から導入する意図もわかる。同化政策をおこなった身勝手な善意や穏和に見える収容所を問題と感じさせる描写は、それはそれで必要だったろう。あるいは冒頭から逃亡を続けて、故郷や収容所を回想で描写すれば、体感的に逃亡劇の尺は長くなったかもしれない。しかし、それでもこの題材なら2時間は尺がほしい。
逃亡劇が短い結果として、最も印象に残ったのは、子供の服をめくって肌色で白人とみなせるか決めていく場面や、結末で現実の主人公たちの現在を見せる場面だ。


追いつ追われつのサスペンスや、小さな善意や愚かな悪意に出会っていくロードムービーとしても悪くないだけに、もう一押しがほしかった。それがあれば、最後の最後に明かされる、戻った主人公が再び収容されて逃亡したというモノローグで、より驚くことができたろう。
邦題の『裸足の1500マイル』は、本当は「裸足の3000マイル」だったのだ。