法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『世にも奇妙な物語 '22夏の特別編』

恒例のオムニバスドラマで、今回はいくつかの原作がありつつ、ストーリーテラーを巻きこむ趣向で全体の統一感もある。
www.fujitv.co.jp


「オトドケモノ」は、やや高いがなんでも2秒で配達する宅配アプリを見つけた男が、在宅ワークをつづけながら恋人とともに活用するが……
ジャンプ+のルーキー賞で注目を集め、当時から『世にも奇妙な物語』の原作につかえると評価されていた短編を、その設定を活用するかたちで素直に映像化。
shonenjumpplus.com
異空間に閉じこめられた場面が原作のオチで、そこからの新展開はドラマオリジナル。はてなブックマークid:afunrupar氏をはじめとした複数コメントのアイデアがつかわれている。
[B! 漫画] オトドケモノ/2021年9月期ブロンズルーキー賞 - オクスツネハル | 少年ジャンプ+

afunrupar 一旦離婚して外の人と結婚してアプリ使ってもらうとか?

いずれにしてもアイデアには著作権が発生しないものの、スペシャルサンクスくらいはクレジットされても良さそうだと思った。
そして上記コメントからさらに発展させていくわけだが、そこで主人公の絶望感を強調するためだけに結婚せずに生涯年収を出して実世界へとりよせる展開には首をかしげた。いや、離婚届を提出しようがないのにネット越しの結婚が可能という主人公の思いつきが間違っていたと解釈するべきか。
あと、外国から移動の時間を無視して経費は800円だけで実費でとりよせられるなら、物価の安いところから食料や衣料を調達すれば、定収入でも生活費が安くなって楽になるのでは、と思った。さらに考えれば、輸出入を仕事にすれば、かなりの収入を叩きだせるのでは?といったことも思った。


「何だかんだ銀座」は、ある夏の日に少年が父につれられ、銀座の天然「ニホンオオカネモチ」を捕獲する。そして気難しいそれをペットとしてかわいがるが……
前エピソードはWEB漫画が原作だったが、今エピソードは「小説家になろう」で公開されたショートショートを商業書籍化したものが原作。
何だかんだ銀座
ベッタベタな感動ドラマの一部分だけ別の何かに置きかえるパターン。俳優としてのうまさなのか、それとも素人演技の活用がうまいのか、人間味を感じさせない有田哲平の「ニホンオオカネモチ」の描写は良かった。
しかし父がリストラをされて「ニホンオオカネモチ」を飼いつづけられなくなったなら、社長でもあると説明された「ニホンオオカネモチ」から何らかの利益を引きだせそうに思うのだが。現実のペットでも愛玩だけでなく経済動物として活用もできるわけだし。
オチはペットがメタ化される予想通りの展開。しかし主人公の男子が成長して就職活動している時に社長に呼ばれる展開で『釣りバカ日誌』的なオチかと一瞬思ったので、予想通りなのに意外性を感じられたのが面白い。ちなみに原作は再会した瞬間がオチ。


「メロディに乗せて」は、脳内に流れる音楽にあわせて行動しないと死に至る病にかかった女性の、同じ症状をかかえた男性との奇妙な出会いを描く……
今回の放送はこれのみ原作のないエピソード。『ドラえもん』の「ムードもりあげ楽団」を思い出させるが、個々人の脳内で鳴り響くBGMにあわせるしかないので周囲を巻きこめず、孤立感と結束感を深めていく。
これも脳内BGMが「チャンチャン♪」的な物語の終了をあらわす音楽からのメタオチを予想していたが、予想以上にメタなオチで、かつストーリーテラーが劇場にいる描写が伏線となっていて、その徹底ぶりは楽しかった。
同じ病気をもった人間が集まりすぎている御都合主義を感じたものの、逆に診断した医師の観測できる範囲に3人いたというだけで、その世界には他にも同じ症状の人がいると解釈するべきか。
しかしリニューアル前の『ドラえもん』BGMや『おジャ魔女どれみ』主題歌など、他局のアニメ音源を多用していたのはどういう理由だろう……


「電話をしてるふり」は、ナンパ男を撃退するため父親とスマホで会話しているふりをしていた女性が、ひょんなことから父親と間接的な通話をはじめる……
芸人が原作とアピールされていたが、別にドラマのために書きおろす企画があったわけでもなく、吉本芸人が発表したショートショートの1作にすぎないので、良くも悪くも特別なこととは思わなかった。

直接的には通話をできない設定はおもしろかったが、そこから原作は活用や発展を見せることをせず、オチも最後に通話できただけで納得感がない。ナンパ男の行動が出オチ的なおもしろさがあっただけ。
ドラマは最後に仏壇を見せる場面で、父親の遺影だけでなく女性の写真も見せて不穏な空気をただよわせているが、死ぬ直前だったから通話できたという説明がされたわけでもなく、やはりオチとしては弱い。

『ドラえもん』アマガエール/うつしっぱなしミラー

 EDは先週発表*1されたジャイアンの新曲で固定。さらに子供たちのダンスチームでふりつけを教える実写パートがついた。


「アマガエール」は、ピクニックが雨で中止になって、その雨のなかで買い物をたのまれたのび太のため、雨が心地よくなる秘密道具をドラえもんが出す。その秘密道具をみんなにもわけてピクニックをするが……
 清水東脚本、佐野隆史コンテによるアニメオリジナルストーリー。気候変動で大雨こそ増えたが時期が毎年ずれている印象があり、梅雨時というには少し季節外れな気がする。
 先週につづいてカエルネタなのは偶然か。アマガエルにくわえて、ドラえもんの台詞にあるように雨が応援しているというダブルミーニングの秘密道具は原作らしさがある。
 買い物が濡れても気にしない問題は予想できたが、全員が秘密道具を飲んで雨に対する感覚が変わっていった展開は良かった。薄暗く誰もいない場所でのび太たちが楽しく遊ぶ寒々しい光景にSF短編『流血鬼』を思い出す。
 しかし雨に濡れたキャラクターは水の記号的な白い線を入れているくらいで、もっとハイライトを作画したり撮影を工夫したりして表現してほしかった。一応、終盤の雨季のジャングルと差別化する必要があったのかもしれないが。


「うつしっぱなしミラー」は、ひとり遊びの輪にはいらない転校生うらなりにのび太は声をかけるが無視されてしまう。帰宅するとどら焼きが置いてあり、のび太はイタズラで隠したが……
 2017年にアニメ化した別短編*2に登場する秘密道具の初出エピソードをパクキョンスンコンテ演出でアニメ化。感動的なストーリーだが、アニメで見るとあまり出来事に関連性のない構成という印象。
 ロングショットを多くして学校のクラスメートをフレームに多数いれこみ、うらなりの孤立感を浮きあがらせるコンテが地味にすごい。良いコンテではあるのだが、連続TVアニメの制作体制でこれができると信じて実際に成立しているところにシンエイ動画の底力を感じる。
 オチは原作どおりだが、現在ならスマホタブレットで一般人でも可能だろう。ただ、豪華客船といっても遠洋では気軽に通信できないし、モニターごしに通話することをあきらめる大人もいるので、まだ不自然というほどではない。

菓子のレシピを信用できずに調理すると、てきめんに失敗する

黒点だらけで商品にならない青梅が手に入り、アルコールは嗜まないし梅干しや砂糖漬けは発酵が怖いし完成まで時間がかかる。
そこで素人でも簡単にできそうで、すぐ試食できそうな甘露煮のレシピをNHKの「きょうの料理」で見つけて試したのだが……
www.kyounoryouri.jp
同じようなレシピが「きょうの料理」に複数あるが、このレシピが最もポイントが具体的で多く、わかりやすいかと思って選んだ。
しかしゆっくり温めながら転がす前半で、手でさわっている梅がいつまでたっても硬いままで、砂糖をくわえて煮ていく合計20分間で柔らかくなりそうな感じがしない。
そこで砂糖をくわえて煮る時間を少しずつ多く、合計30分間くらいかけて煮たところ、最後に煮ている時に一気にグズグズに崩れてしまった……
わりと黒点だらけでも気にならない見た目にはなったし、味自体は悪くなかったので、次の機会があればもう少していねいにやるつもり。

映画監督として協会にいた吉村元希氏を、大島渚と深作欣二が映画監督として当たり前に遇したという逸話

半月ほど前、吉村氏が両監督の記憶を語っていた。アフガニスタンの女性研究などでTVに出ることの多かった清末愛砂氏とタクシー運転手の逸話を受けてのものだ。


昔所属してた映画監督協会で年配男性監督たちから「美人監督美人監督」とはやし立てられて所在なかった。
そんなとき大島渚さんが「君たちそれは女性蔑視だよ」と止めてくださった。
ずっと大島さんを尊敬している。
美人だったり女性だったりする前に、人間であることを認めてくださる方。
深作欣二さんは「あなたは映画監督なんだから、あなたの映画を見たい。それから話をしよう」と言ってくださった。
大島さんも深作さんも、昭和の人たちだけど凄く素敵だった。
ずっと忘れない。

吉村氏は主に東映のアニメ脚本家としての活躍が記憶にあるが、はっきり女性的な名前ではないこともあって性別を意識して視聴したことがなく、今回のツイートで初めて女性ということを認識した。

ベテランのアニメ監督として生活の苦境を語っていた渡部高志氏の、二年前の思い出ツイート

しかし今回のツイートは転職を考えていたという過去より、つづくツイートで社会全体の貧しさや余裕のなさを示唆しているところが印象深い。


2年ほど前、もうアニメなんかやめようと思い立ち
本気で転職を考え、人材登録サイト経由で応募したが
ことごとくだめで、シルバー人材センターに行けと言われ、求人が軽作業、夜勤の守衛、ぐらいしかなく
手取り12万程度。63歳での転職は絶望と悟った。
厳しい世の中だ。
結局転職できぬまま今に至る。
卑下するわけではないが、自分からアニメを消したら
ほぼ無価値の人間だ。
だがいつまでもこの仕事は続けられない。
やがて大きくステージが変わるだろう。
その時どうすればいいのかまだ見えていない。
高校時代の同級生はみんな定年退職して
悠々自適・・・なのか?
俺にはそうも見えんのだが。
しかし60歳定年は早すぎるな。
俺はまだかろうじて現役だ。

多くが原作付きとはいえ何度も監督としてTVアニメをヒットさせて近年まで精力的に仕事をつづけているなら、そろそろ転職するまでもなく貯蓄や版権収入で安定した生活ができるべきだということは感じられる。そういう契約になっていないのだろうが、それはそれで業界の貧しさをあらわしていることに違いない。
しかし社会に余裕があれば、さまざまな事情で仕事をやめたいフリーランス全般が、技術がなくても充分にできる新たな仕事があるはずだ。いやそもそも仕事をしなくても健康で文化的な最低限度の生活は保障されなければならない。