のび太がドラえもんに説教されていた時、部屋に羽アリが舞いこむ。羽を落として産卵しようとするアリを、ふたりは庭に移してやる。
のび太はアリを観察する楽しみを知り、それをやめさせようとする周囲を巻きこんで、縮小してアリの巣穴へ潜入することに……
普段より少し頁数の多い原作を、中編で放送枠いっぱいにアニメ化。担当したスタッフは小林英造脚本に、腰繁男コンテ演出。劇中で秘密道具を使ったファンタジーな情景を作りあげているためか、アニメ演出としてのデフォルメは抑えている。
物語は、リニューアル初期の傑作「タンポポ空を行く」と同じく、擬人化した生物をとおしてのび太が自分を見つめなおすパターン。クローズアップしたアリが怖いからといって擬人化して観察したり、いつまでも飽きないで見ていられると終盤で語ってすぐ飽きた後を描写したりと、つきはなした人間観が藤子F作品らしい。今回はテーマとあいまって児童文学らしい硬質な雰囲気も感じた。
ほぼ原作に忠実な内容で作画も良く、全体として文句はない。巨大なミラーでアリの観察をする時、指でタッチ操作したのは、タブレットやスマートフォンが普及した現代ならではのアレンジ*1。巣穴で仲間たちとはぐれるアレンジによってサスペンス性を増しつつ、巣穴の各部を細かく見せる描写へつなげる工夫もあった。
大きくアニメオリジナルといえるのは、縮小時に食糧不足のアリを救うため台所に導いてやるシークエンス。アリに親身だったはずなのに食糧確保を邪魔しようとした原作展開を、このアレンジで帳尻合わせしている。
ここでアニメオリジナル恒例となったミニサイズ冒険譚*2としての楽しさもある。台所で頭上を見あげた時のレンズのゆがみや、拡大された新聞の活字の無機性など、背景美術をつかった巨大表現が過去にない。のび太が砂糖ごと紅茶に入れられた場面の、紅茶の水面のゆらめき作画も目を引く。それを救うためドラえもんが飛びまわる描写も、ロングショットでこぎみよい飛行を見せたり、野比玉子の巨大な顔を回りこんだり、アニメとして見せ場となっている。
ひとつ残念なのは、紅茶でアリの臭いが消えて仲間ではないと気づかれるかと思いきや、無関係に効果がきれて気づかれただけ。仲間とはぐれて行動した展開にも意味があまりない。行動が怪しまれただけの原作よりも説得力はあるが、せっかくのアニメオリジナル描写なのだから、もっと密接に本筋とからめてほしかった。
*1:最近の体験を思い出した。スマホ世代の子供とテレビ - 法華狼の日記
*2:その始まりの感想はこちら。『ドラえもん』そして、ボクらは旅に出た - 法華狼の日記