法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『夏への扉』より『時をかける少女』のほうがまだSFオルグに向いてるんじゃない?

日本へ舞台を変えて『夏への扉』を実写化するという報道を受けて、SF小説として欠点が多いと批判する意見と、それゆえ初心者には良いという意見が出てきている。
『夏への扉』を勧めるのは素人騙してSFにオルグするため

重要なのは作者がハインラインだという事だ。


夏への扉』のあとに、間違って同じ作者の『異星の客』(※1)とか『悪徳なんかこわくない』(※2)みたいなヤバげなSFを手に取って色々目覚めてしまうかもしれないだろ。

それならば前世紀に実写ドラマも実写映画もヒットして、今世紀もオリジナルストーリーでアニメ映画化されてヒットを飛ばした『時をかける少女』も、同じ作者のSFに手をのばしてもらえたはずではないか。

時をかける少女 [Blu-ray]

時をかける少女 [Blu-ray]

  • 発売日: 2008/07/25
  • メディア: Blu-ray

そもそもアニメ版『時をかける少女』の結果を思えば、『夏への扉』も映像化スタッフの仕事が追いかけられ、原作者の別作品には必ずしも食指がのばされない結果になるように思える。
事実として、同時期に同じ制作会社で同原作者の別作品をアニメ化した『パプリカ』ですら、高い評価は受けつつもヒットとはとうていいえない結果に終わっている。

パプリカ [Blu-ray]

パプリカ [Blu-ray]

  • 発売日: 2007/05/23
  • メディア: Blu-ray

ライトなSF作品を気にいったファンは、近いテイストの作品を欲していくことが多くて、同じ原作者の異なるテイストの作品に興味がいくことは少ないのではないだろうか。


初心者をタイムスリップSFからハードSFにひきこむなら『ドラえもん』の間口の広さで充分だろう。短編「ドラえもんだらけ」の複雑なプロットと毒気のあるドタバタギャグは読みごたえがある。
小説という媒体で、ライトなドラマでひきこんで小難しい設定をときほぐす楽しさを理解してもらうなら、『マイナス・ゼロ』や『タイム・リープ あしたはきのう』などが古典として良いのではないか。

『21エモン』のゴンスケって、ひょっとして三里塚闘争に影響されていない?

シアトル自治区の小さな農園をとおして、現代の黒人が農園を所有できない問題を知った。
シアトル自治区ではじめられた農業は、英植民地のインドでおこなわれた塩の行進を参照すればわかりやすい - 法華狼の日記

さらに、黒人が農園所有権をうばわれてきた歴史への抵抗であるともマーカス氏は語っている。

上記エントリを書いた時はインドの非暴力不服従運動「塩の行進」を連想し、なぞらえた。


しかし自国の事例として、耕作する権利をうったえた「三里塚闘争」も思い出していた。それは国策によって迷走させられた農民がようやく確保できた大地を、さらに国家が奪おうとすることへの抵抗だった。
三里塚闘争(さんりづかとうそう)とは - コトバンク

1966年(昭和41)7月4日の閣議で新国際空港を三里塚に建設することが決定するが、これに先だつ6月28日、地元農民は三里塚新国際空港反対同盟(委員長戸村一作(とむらいっさく))を結成、反対運動を開始した(7月10日三里塚・芝山連合空港反対同盟に発展)。

68年初頭から三派系全学連の支援が本格化し、多数の逮捕者、負傷者を出す警察機動隊との衝突が続いた。71年2~3月、9月の2次にわたる土地収用法による強制代執行には地下壕(ごう)を掘り、一坪買収運動を行うなどして抵抗、逮捕者は1200人を超えた。

さらに物語への興味関心から、藤子・F・不二雄によるSF漫画『21エモン』の一編「死ンデモイモヲ作ルダゾ」も連想していた。芋掘り用ロボット「ゴンスケ」がホテルに作った畑を死守するエピソードだ*1

もとは廃業寸前のホテルで使われていない部屋で隠れて作った畑だったが、宿泊費をはらうかたちにして堂々と耕作をつづけることに。しかしホテルの従業員ロボットにもどしたい主人と対立し、宿泊費も底をついてしまう*2

f:id:hokke-ookami:20200702160156p:plain

そして、はげしく抵抗するもゴンスケは負けてしまうが、主人たちはイモの美味しさを知って、畑をそのまま残してゴンスケにまかせることを決める……*3

f:id:hokke-ookami:20200702160237p:plain

このエピソードの初出が1968年。つまり三里塚闘争が激化した時期と符合する。
劇中で明確な言及はされていないが、同時代のニュースが作者の目に入らなかったとも考えづらい。意識して描いた可能性は高いのではないだろうか。

*1:藤子・F・不二雄大全集 21エモンに収録されているが、引用したコマは藤子不二雄ランド版の2巻173頁より。

*2:前掲書181頁。

*3:前掲書184頁。

『ドラえもん』つくれーるマイレール/悪運ダイヤ

「つくれーるマイレール」は、駅前マンションに住んでいる友人がうらやましくなり、のび太ドラえもんに聞いてみる。するとミニチュアの列車に乗りこめる秘密道具を出してもらうが……
永野たかひろ脚本、そーとめこういちろうコンテのアニメオリジナルストーリー。原作短編「野比家は三十階」*1のようにゲスト友人の住居環境をうらやむ導入から、秘密道具の再現でトラブルへ発展する。
邪魔にならないところに設置すると説明されていたレールを、のび太のさそいで列車に便乗しようとする友人たちが好き勝手に敷設するあたりから、どのような展開になるかは見えすいている……が、その対処にバラエティがあって、けっこう見ていて楽しめた。
完全に鉄道員になりきったドラえもんが、ダイヤを引いたりフォローを指示する姿もかわいい。秘密道具のディテールも細かく、エピソード全体に鉄オタ感があって、予想より見ごたえがあった。
友人間のいざこざなどはなく、良くも悪くも作品の枠組みから外れた印象ではある。しかし、原作でたまにある趣味性にふりきったエピソードらしさがあって、これはこれで悪くない。


「悪運ダイヤ」は、寺本幸代コンテの、2018年の再放送。原作のアニメ化としては理想的な回。
hokke-ookami.hatenablog.com

*1:高層アパートに住む友人をうらやむエピソードで、2015年にアニメ化。 hokke-ookami.hatenablog.com

『はめふら』がTVアニメ化される前、コミカライズを読んでいたころから奇妙な既視感があったのだけど

理由がわかった。
窮地に追いこまれ孤立したはずなのに、バイタリティをもって立ちあがり、男も女も惚れさせまくるノンケヒロイン。
よくある設定の安普請な作品のようでいて、キャラクターを大事にして粗さが魅力になるエンタメアニメ。

いうなれば「能天気なクロスアンジュ」だったんだ。
クロスアンジュは「汚いシムーン」じゃなくて「ダサいウテナ」だと思う - 法華狼の日記

【悲報】中国が崩壊するする市場は中国が崩壊しないかぎり盤石【不死身】

覇権・監視国家──世界は「習近平中国」の崩壊を望んでいる (WAC BUNKO 316) 「中国大崩壊」入門 何が起きているのか? これからどうなるか? どう対応すべきか?崩壊した「中国システム」とEUシステム 〔主権・民主主義・健全な経済政策〕2019年 アメリカはどこまで中国を崩壊させるか: そして日本が歩む繁栄の道中国経済崩壊のシナリオやがて中国の崩壊がはじまる中国崩壊で日本はこうなる新型肺炎、経済崩壊、軍事クーデターでさよなら習近平「大国中国」の崩壊: マーシャル・ミッションからアジア冷戦へ (現代中国地域研究叢書)中国共産党帝国の崩壊―呪われた五千年の末路 (カッパ・ビジネス)小室直樹の大予言 2015年 中華帝国の崩壊 公開霊言シリーズ中国——とっくにクライシス、なのに崩壊しない“紅い帝国"のカラクリ - 在米中国人経済学者の精緻な分析で浮かび上がる - (ワニブックスPLUS新書)中国経済はどこまで崩壊するのか PHP新書中国高官が祖国を捨てる日ー中国が崩壊する時、世界は震撼する (経済界新書)戸籍アパルトヘイト国家・中国の崩壊 (講談社+α新書)中国崩壊前夜: 北朝鮮は韓国に統合されるコロナ、米中戦争、中国共産党崩壊後の世界 (SEIGAN BOOKS)中国崩壊後の世界 (小学館新書)世界最終戦争と中国の崩壊“ The Battle of Senkaku ”『尖閣諸島沖大会戦』【文庫】 新編 日本中国戦争 怒濤の世紀 第十一部 中国崩壊 (文芸社文庫)そして中国の崩壊が始まる (マンガ 入門シリーズ)マンガ中国崩壊 (ゴマ文庫)中国崩壊カウントダウン中国崩壊カウントダウン―世界と日本のこれから世界大乱で連鎖崩壊する中国 日米に迫る激変: EU分裂、テロ頻発、南シナ海紛争…ついに中国で始まった大崩壊の真実: 急落する経済と社会混乱の実態を現地から衝撃報告中国は崩壊しないそれでも中国は崩壊する (WAC BUNKO)中国共産党3年以内に崩壊する!?大予言 中国崩壊のシナリオ世界中に嫌われる国・中国 崩壊のシナリオ (WAC BUNKO)こんなに脆い中国共産党 現実味のある三つの崩壊シナリオ (PHP新書)中国――崩壊と暴走、3つのシナリオ日銀の金融緩和で中国崩壊が近づいた (Voice S)2012年中国崩壊 2014年日本沈没2014年、中国は崩壊する (扶桑社新書)中国大崩壊―世界恐慌のシナリオ

風野春樹氏のツイートを見ていて思いついたネタだが、これでも検索で見つけた全てを網羅したわけではない*1

ちなみに、中国崩壊論の市場が消えつつあるという観測も2017年ごろにいくつかあった。
中国崩壊本の崩壊カウントダウン | ワールド | 最新記事 | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト

本の売れ行き自体も低調になった。「あの手の本には一定の支持層がいるが、大きく売り上げを伸ばすためには中国との『事件』が必要」と、中国崩壊本を何冊も手掛けてきた日本人編集者は言う。「現在、日中関係は安定しているので、ある程度は売れるもののそれ以上の大きな伸びは見込めなくなった」

[異なる視点論点④] 「中国崩壊論」の崩壊 ――日本で現れた見直しの気運 2017.10.28 | 国際アジア共同体学会

ここ数年、「中国脅威論」とともに「中国崩壊論」は溢れているが、このステレオタイプの見方で中国を見ていいのか、疑問が提起された。近頃、「ありのままの中国」に関する報道記事とテレビ番組が増えるとともに、「中国観」について公に反省、見直しの気運が現れたのである。

しかし中国が崩壊しなかったように、中国崩壊論も完全に消えることはなかったようだ。

*1:なお、松村史紀氏や富坂聰氏などは違った意味あいで「崩壊」をつかっているが、タイトルが惹句として機能していることを考慮した。