法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

シアトル自治区ではじめられた農業は、英植民地のインドでおこなわれた塩の行進を参照すればわかりやすい

抗議運動のさなかに警官がすべて撤退し、残された抗議者が自認することとなったシアトル自治区
その一角で小さな小さな農園が作られているという。さまざまな背景と意図がこめられた象徴的な活動だ。


cornicen69氏のツイートを読むと*1、農業を主導しているマーカス・ヘンダーソン氏の意図がわかる。

実際にインタビュー記事を読んでみると、それなり以上の知識と経験をもった人物が主導する、さまざまな意図のこめられた活動ということが理解できる*2
Meet the Farmer Behind CHAZ's Vegetable Gardens - Slog - The Stranger

Marcus was the first to start gardening in the park, though he was quickly joined by friends and strangers. This isn’t the work of a casual amateur; Henderson has an Energy Resources Engineering degree from Stanford University, a Master’s degree in Sustainability in the Urban Environment, and years of experience working in sustainable agriculture. His Instagram shows him hard at work on various construction and gardening projects, and he’s done community development at organic farms around the world.
マーカスは最初に公園でガーデニングを始めましたが、すぐに友人や見知らぬ人が参加しました。 これはカジュアルなアマチュアの仕事ではありません。 ヘンダーソンスタンフォード大学でエネルギー資源工学の学位を取得し、都市環境の持続可能性の修士号を取得しており、持続可能な農業での長年の経験があります。 彼のInstagramは、彼がさまざまな建設や園芸プロジェクトに取り組んでいることを示しており、世界中の有機農場でコミュニティ開発を行っています。

紹介されているインスタグラムを見ると、日本でも珍しくなった土塗りの壁などをつくっている写真が多数ある*3。それらは実験や運動にとどまるかもしれないが、実地経験のある活動家であることもたしかだ。
さらに、黒人が農園所有権をうばわれてきた歴史への抵抗であるともマーカス氏は語っている。後述するTogetterにある「黒人専用」*4の「逆立ちした差別ランド」というツイートは幾重にも的外れだ。

Going all the way back to emancipation, he points out, farming has been an important way for Black people to gain autonomy and self-sufficiency. But Black land ownership, particularly in the farming sector, has dropped precipitously over the last century; in the 1920s, America had nearly a million Black-owned farms. By the 1970s, it was down to less than 50,000.
彼は、解放に戻るまでずっと、農業は黒人が自律と自給自足を得るための重要な方法であったと指摘します。 しかし、ブラックランドの所有権は、特に農業部門で、前世紀にかけて急激に減少しました 。 1920年代、アメリカにはほぼ100万人の黒人所有の農場がありました。 1970年代までに、それは50,000未満に減少しました。

また、ダンボールを利用したマルチ栽培であることが説明されているだけでなく、それが芝生への反対運動の意図をこめていることも読みとれる。

The gardens in Cal Anderson park were crafted quickly, but with expertise. A layer of cardboard smothers grass, which isn’t a particularly healthy crop for the environment; and diverse seedlings donated by neighbors are placed into holes in the cardboard that allow them to take root underground. Now if only we could do the same to all the golf courses.
ルアンダーソンパークの庭園はすぐに作られましたが、専門知識がありました。 段ボールの層は草を窒息させますが、 これは環境にとって特に健康な作物ではありません 。 そして、隣人から寄付された多様な苗が段ボールの穴に入れられ、地下に根を張ることができます。 すべてのゴルフコースで同じことができたとしたら。

灌漑については改良のために寄付をつのっていることもわかるが、そもそも農具などは基本的にすべて寄付でまかなっているらしい。品種の選定もその制約下にある。

he’s also planning improvements, with planters that don’t damage the ground and better watering systems. At the moment, their most urgent donation needs are for water barrels and other irrigation tools.

All of the plants, tools, and dirt have been supplied by neighbors, with more donations arriving each day.
彼はまた、地面を傷つけないプランターとより良い給水システムを備えた改良を計画しています。 現在、彼らの最も緊急の寄付の必要性は、ウォーターバレルと他の灌漑ツールのためのものです。

植物、道具、土はすべて隣人から提供されており、毎日寄付が増えています。

前後して、現状の農園だけで自給自足する可能性は誰も考えておらず、象徴的な意味をこめた実地的な活動であることも明言されている。

Nobody expects the little Cal Anderson plots to be a sustainable source of food for all of the protesters. But they’re a demonstration of how land can be put to better use — and of the importance of land ownership for Black Americans.
Cal Andersonの小さな計画がすべての抗議者にとって持続可能な食糧になるとは誰も予想していない。 しかし、それらは土地をより有効に活用する方法の実証であり、黒人アメリカ人にとっての土地所有の重要性の実証です。


しかし日本では「ホームレスのチャドがチャズの庭を占領し、それを破壊した。」*5といった批判的なツイートが広められている。

上記ツイートなどを悪名高いコピペブログの「保守速報」が紹介したり*6、Togetterで批判的な意見がまとめられている。
シアトルのANTIFA占拠地域で農業が始まった・・・・ - Togetter

米国大統領が陰謀論をとなえて困惑された概念「ANTIFA」をタイトルにもちいている時点で、抗議運動への反駁を優先したツイートばかりまとめていることがうかがえる*7


しかし同じTogetterでもコメント欄まで目をとおせば、すでに「テスト @LSptArU29scqGfl」氏によって、ダンボールを使ったマルチ栽培の可能性が指摘されている。

多くの人が「畑」っていうと「土を耕して~」って考えるんだけど、この手の草地を一から耕すより上から土入れた方が早いんで結構理にかなってる。段ボールは将来的に分解されるんでお安い土作りにいい。これ多分だが結構詳しい人が作ってるぞ

kagami4432 土地柄?を考えると暇も人でも資材もないだろうし、草地を掘り起こして開墾するより上に雑草対策で段ボールでマルチして土をかぶせた方が早いって判断したんじゃないか。根張りはまぁ、水やりを頑張れって話だな(このままだと土が流れ出すから周りをしっかりと囲んで土の流失を防がないとダメだけど、雨が少ないならこの程度でも大丈夫って判断したのかな)

「あるみかん @arumikendou182」氏も、マルチ栽培であることやパフォーマンスのための農業という情報が流れていることを紹介している。

一応苗の下は段ボールに穴をあけて根を張らせるらしい情報が流れてきましたね。芋や豆を作らないのは食糧自給の為というよりパフォーマンス重視だとか。ただパフォーマンスならパフォーマンスでもう少しきれいに植えないのかなという疑問はあります

しかしまとめに反する指摘や情報が書きこまれて以降も、「まあちゃん02 @eK0SV72lWxlYb8L」氏による嘲笑的なコメントなどがTogetterでは支持をあつめている*8

アンティファを賛美してたマスコミと知識人は今後30年は馬鹿にされるだろうな。北朝鮮ポルポトを賛美した日本の左派の様に。


一方、私がマーカス氏のインタビューを読んで思い出したのが、英国からのインド独立をめざしたマハトマ・ガンジーによる「塩の行進」だ。
塩の行進(しおのこうしん)とは - コトバンク

1930年イギリス政庁による塩専売に反対してガンディーが行った抗議行動
アフマダバードからダンディ海岸までの360㎞を行進し,海岸で塩作りを行った。行進の途中で多くの民衆が加わり,非暴力・不服従の大きなデモンストレーションとなった。この行動がインドの民族意識高揚に果たした役割も大きかった。

もちろん歩いて海岸へいって人力でつくった塩だけですべてまかなえるはずはない。あくまで抵抗の意思をしめすための、そして自信を深めるための抗議活動だ。
むしろ困難であるからこそ、達成した経験がたいせつな支えになる。

*1:私はb:id:emiladamas氏のブックマーク経由で知った。

*2:日本語の文章はgoogle翻訳を手直しせずもちいた。以下も英文からの翻訳は同じ。以前よりかなり良くなっているが、もちろん正確性などには問題がある。

*3:https://www.instagram.com/blackstarfarmer/

*4:そもそも立看板の文章から「先住民の農家」を削って翻訳しているのがなぜかわからないし、「専用」というように他のグループを排除した翻訳をするべきか疑わしい。さまざまな写真を見れば、実際には多様な人種が協力していることが見てとれる。

*5:「チャズ」は「capitol hill autonomous zone」の略語で、キャピタルヒル自治区のこと。「チャド」は屑という意味のスラングだと思うが、私の力では判断できない。

*6:[B!] 【衝撃映像】米シアトル治外法権自治区、農業を始めるも酷すぎると話題にwwwwwwwwwwwwwwwww | 保守速報

*7:事実、「まくるめ@MAMAAAAU」氏などは無根拠に否定しつつげながらもダンボールをつかった農法にも言及しているが、ツイート以降にまとめられたTogetterに引用されていない。

*8:現在、「まあちゃん02 @eK0SV72lWxlYb8L」氏のコメントは支持が15。一方、パフォーマンスという情報を紹介しつつ批判する「あるみかん @arumikendou182」氏は支持が6、「テスト @LSptArU29scqGfl」氏にいたっては引用したコメントは支持が0となっている。なお、「北朝鮮ポルポト」を「日本の左派」が賛美していた時代には右派も少なからず賛美にまわっていたことも指摘しておこう。ベトナム共和国と連携したヘン・サムリン勢力との対立で、特にポルポト政権はさまざまなねじれがあった。