法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『スター☆トゥインクルプリキュア』第46話 ダークネスト降臨!スターパレスの攻防

トゥインクルイマジネーションがそろい、儀式を始めようとスターパレスに集まったプリキュアたち。
そこに強化した鎧を身につけたノットレイダーがあらわれ、星空連合艦隊との全面対決が始まる……


今回も村山功シリーズ構成の脚本。コンテは座古明史。しかし設定消化に追われて、この作品の良さがあまり出ず、いつものシリーズと印象が変わらなかった。
全面戦争に発展しそうな状況をキュアスターが割りこんで止めるのだが、自分自身にブレーキをかけたキュアエール*1ほどの驚きはない。地球人もふくめてひとりひとり「宇宙人」という演説は理解できるが、そうした言葉を戦場全体にとどけられるプリキュアという立場でやるのはどうなのか、と悩んでしまう。
あまり座古演出が好きではないことも痛感した。敵味方が満ちた画面はせまくるしく、宇宙空間の広がりを感じさせない。顔に濃い影を落として迫力を出す演出も、シーンとしてのまとまりがなく、カットごとのインパクトにとどまる。


ダークネストの正体も、インターネットで初期から予想されたとおり蛇使い座のプリンセスだった。もちろん姿形といった伏線をきちんとはっていた結果であり、意外性がないこと自体には問題がない。
しかし正体をあらわしていきなり全宇宙の消滅を語るのは、唐突すぎるだけでなく世界観をスケールアップさせすぎて、宇宙と行き来しながら生活感があるという作品の長所がなくなった。そこで敵幹部も離反しかねないくらい驚くのも、そのまま敵組織の御都合主義な瓦解につながってしまいそう。そうでなくても、これまで積みあげてきた敵幹部のドラマと関係なさすぎる。
おそらく、いばら姫の魔女のように仲間外れにされたことがダークネストの真の動機だと思うのだが、だとすると今回に大きすぎる目標を語ったことがインパクト優先でしかなくなってしまう問題もある。

国際共同制作バリバラドラマ『37セカンズ』

母娘ふたりで生活している脳性麻痺の夢馬。車椅子で仕事場に出かけ、ユーチューバーとして活躍する人気漫画家のアシスタントをつとめながら、実質的な漫画制作をおこなっている。
漫画家としてひとりだちしたいと試行錯誤をはじめる夢馬は、ひとりの女性編集長に実際の性体験が必要だと断られる。そこから夢馬はおそるおそる異性への興味を広げていくが……


すでにBSプレミアムで12月5日に放送されていたが、NHK総合で地上波放映されたのを機会に視聴。
国際共同制作バリバラドラマ『37セカンズ』12月5日放送決定! | お知らせ | NHKドラマ

2019年ベルリン映画祭パノラマ部門で観客賞と国際アートシネマ連盟賞をダブル受賞し、その後もトライベッカ映画祭やトロント映画祭で正式上映され、世界各国で高い評価を受けている映画「37セカンズ」。

今回放送するテレビドラマ特別版は、劇場公開版とは違う視点で主人公ユマの物語を描きます。

2016年サンダンスインスティテュート・NHK賞に日本からノミネートされたHIKARIさんのオリジナル脚本の映像化をNHKは支援してきました。

約1時間半の放映時間で、約1時間15分ほどで本編ドラマを断ち切るように終えて、残り15分でスタッフインタビューや映画祭の様子を見せる。


これまでの特集ドラマ3作は実際の障碍者を配役しつつ、あえてファンタジー設定などをとりいれ、寓話性の高い短編としてまとめてきた。
『バリバラ特集ドラマ「悪夢」』 - 法華狼の日記
『バリバラ 禁断の実は満月に輝く』 - 法華狼の日記
『バリバラドラマ第3弾 アタシ・イン・ワンダーランド』 - 法華狼の日記
比べるとバラエティ番組らしさは後述の描写を除いて少なく、ドラマ単品で完結する作品でもない。脳性麻痺者の日常を淡々と描いて、障碍者の性へと少しずつ視野を広げていく。
主人公が出会う人々は少なからず障碍者に好意的で、女性相手にセックスワークをおこなう男はもちろん、搾取や束縛する人々すらも表面的には優しい。しかし、ひとつひとつは小さな手続きの不便がくりかえし描写されて、あらゆることにハンディを負う立場が実感できてくる。
そして自立する主人公は母との衝突を経験し、離婚した父へ会いに行く場面で物語が終わる。そうと理解してみれば一区切りはついているが、初見では完結していない印象を受けたのも事実。


たぶん劇場公開された全長版を見なければ評価は難しい。
脚本もつとめたHIKARI監督は、障碍者のドラマではなく、自立する女性のドラマを描こうとしたという。たしかに、見映えのいい漫画家がゴーストライターを使うドラマも、愛憎を隠して保護しながら束縛する母娘のドラマも、物語ではありふれている。そこに障碍者という立場をくわえただけなら小手先の変化でしかない。
新味を感じたのが、こうしたドラマでは主人公が性を知って自身を解放するか、あるいは破滅していく展開になりがちなところ、初体験を失敗したまま性行為をせずに終わること。それでいて主人公は性と距離をとることなく、障碍者と性の関係に興味をもって、より広い意見を求めて社会に出ていく。
ただ、全長版では実際に性行為をそのまま肯定して終わりそうな気配もある。


また、数少ないバラエティ番組らしさとして、父から贈られた絵葉書がアニメーションしたり、劇中のSF漫画を主人公の生活に重ねたりする描写は面白かった。
しかしゴーストライター漫画家という設定はありふれているし、その関係のはっきりした破綻も解決もないまま物語が終わってしまう。主人公の自立を描くなら、収入をえている漫画家という側面も重要になるはずなのに。
主人公が出会い系サイトで次々に知りあう時、最初の男が典型的に気持ち悪いオタクキャラクター*1なところも、あまりスタッフは漫画やその読者によりそう気はなさそうという印象を受ける。
実際にHIKARI監督のプロフィールを見ても、あまり日本のサブカルチャーとはつながりがない。
HIKARI FILMS

幼少の頃から合唱団を通じてミュージカルやオペラ、EXPOなどで舞台に立つ。南ユタ州立大学にて舞台芸術・ダンス・美術学部を学び、学士号を取得後、ロサンゼルスに移住。女優、カメラマン、アーティストとして活躍後、南カリフォルニア大学院(USC)映画芸術学部にて映画・テレビ制作を学ぶ。 卒業制作映画 『Tsuyako』(2011) で監督デビュー。DGA・米国監督協会で最優秀女学生監督賞を含む、合計47賞を受賞。

その関連で、性描写をするにあたって性体験が必要という劇中編集長の主張を、この映画がどのように位置づけているのかわかりにくい問題もある。
主人公の描いている漫画のひとつがSFであるように、漫画の面白さは実体験が必要条件ではない。もちろん誰も経験しえない架空世界と体験者が多い性行為という違いはあるが、それでも資料を参考にすればフィクションとして楽しめるくらいの創作はできるものだ。
女性編集長という立場から過去の偏見を内面化した台詞なのか、障碍者である主人公のもちこみを断るため姑息な理由をもちだしたのか、それとも編集長の主張は一理あるという映画のメッセージなのか……ここで想像だけの創作を肯定する視点を劇中に出せば相対化できるだろうが、実際の障碍者が登場することが特色のドラマなので、そのような意見を描写するのも難しいか。

*1:描かれたようなオタクや、それ以上にコミュニケーション能力に問題のあるオタクが存在しないという話ではない。主人公に表面的には好意的な人間ばかりを登場させている世界観で、あえて気持ち悪いオタクを登場させた意図が問われるという話だ。自身の話ばかりつづけることで、結果的にしても主人公の姿を気にしないという面白味を描きたいなら、第一印象を描きかえるくらい描写の長さがほしい。

『ビートたけしの知らないニュース 超常現象Xファイルスペシャル』

年末恒例だった『ビートたけしの超常現象[秘]Xファイル』を今年は放映しないのかなと思ったら、年明けに3時間SPとして放映。
www.tv-asahi.co.jp
前回までは『TVタックル』の特番という立場で放映していたが、今回から『ビートたけしの知らないニュース』の一企画という立場になるのだろうか。


今回は海外ロケこそなかったが、日本の各都道府県から短い映像を集めて、バラエティ番組らしく構成できていた。
どれも超常現象とはいいがたくとも「ナニコレ」といいたくなる風変わりな映像や写真ではあり、質は低くとも量を多く展開すれば楽しさが生まれる。
素人の投稿写真的なものばかりで作りこんでいない映像なので、超常現象肯定派もそれほど強気になって主張せず、あっさり自然現象の可能性が高いと認めていく。
投稿者にしても、海岸に流れついた死体を娘は人魚と主張したが母はゴマフアザラシという可能性を語ったり、特にオカルトを信じているわけではない。


大槻義彦が勇み足で全否定して揚げ足をとられたり、 山口敏太郎が関係ない話をもちだす詭弁をろうして一触即発になったり、いくつか火花の散る場面もあったが、全体として対決はおとなしい。
特に中沢健の存在感が番組を形作っているのが大きい。超常現象というにはオリジナリティの高い幻想的なオカルトを主張することで、肯定派も味方せず、否定派も苦笑で応じる。本人も本気で主張しながら反論に耳をふさぐ性格ではなく、「スカイヘアー」と主張した映像が蛸型凧にそっくりと指摘されればしぶしぶ認めていく。
すでに作家として一定の立場にある人物だが、その背景となった良くも悪くも無垢で純朴な人柄があらわれているな、と感じられた。特撮愛好家としての半生記を読んだ時は、一種の好感すら持てた。

平成特撮世代~新時代のゴジラ、ガメラ、ウルトラマンと仮面ライダー~ (映画秘宝セレクション)

平成特撮世代~新時代のゴジラ、ガメラ、ウルトラマンと仮面ライダー~ (映画秘宝セレクション)

  • 作者:中沢 健
  • 出版社/メーカー: 洋泉社
  • 発売日: 2017/03/02
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

もちろん、そうした好印象もオカルトにつながれば、全肯定してはいけないとも思うが……

「話数単位で選ぶ、2019年TVアニメ10選」の投票集計結果の雑感

順位の重みづけがされず、かつ知られざるエピソードをほりおこすため1作品1話が原則なのだが、今回は例年に比べても票がばらけている感がある。
「話数単位で選ぶ、2019年TVアニメ10選」投票集計: 新米小僧の見習日記
3位の時点で票が一桁になり、一票が入るだけで9位。私が選んだ話数で、十票中九票まで他にいれたブログがいなかったのはさすがに驚いた。
「話数単位で選ぶ、2018年TVアニメ10選」の投票集計結果の雑感 - 法華狼の日記
実際の投票傾向を見ると、各方面で話題になった作品のなかでもクライマックスとして注目された『鬼滅の刃』第19話が2位につけていることや、『グランベルム』第7話などは演出もふくめたショッキングさで選ばれたことが理解できる。しかし『バビロン』の2話が1位というのは、まったく評判を聞いていなかったので予想できなかった。


ちなみに今年を区切りとして、新米小僧氏は参加サイトのリスト化および各話集計を辞めるという。その労には素直に頭が下がるし、これまで年末年始を楽しませてくれたことに心から感謝したい。
また、アニメに限らず作品感想の舞台がブログからツイッターや各ジャンル感想サイトに移っていてる感もある。事実として、今回は参加サイトが50と、前回の61から相当に減っている。その年のふりかえりをブログにまとめるという形式そのものも、変化をせまられていくだろう。
さらに、制作現場の疲弊が放映延期などで露呈し、放映や配信の形態も多様化するなかで、TVアニメを放映日ごとに追いかけて話題にするという需要のかたちも変わりつつある。私自身、1クールぐらいの作品は、一挙配信などでまとめて視聴することが増えてきた。

『相棒 Season18』第11話 ブラックアウト

年末のゴルフ場で開かれた親睦コンペに、特命係も参加していた。そこには警備会社を経営する警察OBの蓮見恭一郎や、その息子で三課の出世頭の姿もあった。
ゴルフが終わり、杉下や蓮見が地下駐車場に降りた時、突然の爆発で出入り口が全てふさがれる。それは収監されている組長や仲間の釈放をせまる暴力団員のしわざだったが……


テレビ朝日開局60周年記念 元日スペシャル」として2時間超にわたって放映。海底トンネルに閉じこめられる映画『デイライト』*1を連想させるクライムパニックを、きちんとした絵作りで展開した。
何よりも舞台となる地下駐車場の崩落をきちんと作りこんで、一般向けTVドラマとは思えないほど照明を落として暗闇を演出。照明になるのは電線の火花や自動車のライトなど、埋まった地下にあるものだけ。
単純に閉じこめられるだけなら救出して終わりになるところ、毒ガスを発生させる薬剤がもれたり、そもそもが脅迫のための大事件だったりして、制限された舞台でも状況が変化していく。


さすがに脅迫ひとつに事件が大がかりすぎるかと思えば、暴対法によって生活できなくなった組員の思いがあり、余命半年という立場で動かずにいられなかった心情が語られる。
さらに蓮見が同じような事故に巻きこまれた過去があり、偶然に思えた危機すらも意図的な再現とわかっていく。
そこからは『相棒』らしい複数犯の動機がかかわってくるが、ありきたりといっていい復讐もあっさり流して、組員ともども他者の感情を利用した謎めいた真犯人が全てを制御していたという展開に。
組員の怒りは組長にさとされ、復讐心は煽られただけで、すべては利益目的の冷徹な犯人が起こした事件だった……とまとめるのは、後に残らない娯楽にするなら正解だし、結果的にせよ死者を出さず巨悪をあばいて大金をかすめとるキャラクターには愉快犯的な魅力がある。


実のところ、その真犯人には共犯の復讐者がいたというツイストも入るのだが、こちらはドラマの当初から予想したとおりだった。その復讐心の発露も、いかにも刑事ドラマらしい平凡さで、悪くはないが良くもない。
過去の被害者となった路上アーティストの位置づけもよくわからない。現在では依頼を受けて許可をとって絵を描く例もあるが、そうした美術家の卵を描いているのか、公共物をキャンバスにするチョイ悪にも夢見て生きる権利はあるという話なのか、どちらで解釈すべきなのだろうか。
いきなり動き出す無人の遊園地という演出も、オーソドックスな良さこそあるが、誰が何のために動かしているのか説明がまったくなく、絵作り優先が鼻につく。
いっそ地下に閉じこめられた時間をもっと長くして、第二の復讐者は先に逮捕して、冷徹で利己的な真犯人との対決で物語を終えてほしかったかな、という感想。

*1:途中で毒ガスがもれるあたり、元ネタのひとつなのかもしれない。 『デイライト』 - 法華狼の日記