法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『デイライト』

交通のかなめとして1920年から開通している海底トンネル。それが交通事故に始まる大爆発で崩壊してしまう。救助隊のチーフを辞めてタクシー運転手となっていた男キットが、単身で生存者のところへと乗りこむが……


1996年の米国映画。『ワイルド・スピード』のロブ・コーエンが監督をつとめ、シルベスター・スタローンが救助隊元チーフを演じる。

ILMが特撮を担当。部分的にCGを使っているようだが、基本的には事故の発端となる大爆発をミニチュアで描写して、以降の本筋では崩落しかかったトンネルの各部を長大なセットで表現している。
炎をリアルに見せるための大スケールのミニチュアは楽しいが、配置された自動車ミニチュアは全体的にノッペリした質感で、乗員が人形なのもあからさまで、感心できない。
一方、トンネルの巨大セットは良い。単調な構造物なのに炎や水によって姿を変えていき、登場人物の多用な危機も演出していくので、約2時間の尺でも見飽きない。巨大送風機や横穴を通ろうとしたり、爆破作業のため残った自動車に這い上がったり、あがきつづける登場人物がさらなる変化をつくりだす。


ジャンルとしては事故で閉鎖環境にとりのこされるパニック映画のひとつだが、なかでも『ポセイドン・アドベンチャー*1を不思議と連想した。
まったく事故の経緯から情景まで異なるし、主人公の立場も違うし、脇役が個性をいかした活躍をしないし、目標の明確性にも差があり、箇条書きにすると共通点は少ないくらいなのだが。
いずれにせよ、生存をさぐる娯楽活劇として悪くない。主人公が来てからも意外とあっさり死人が出るので緊張感が持続する。「ニューヨークに不倫親父が多すぎない?」とか、「キャラクターの個性の散らしかたがハリウッド」とか感じたが、そうした有象無象を主人公が必死でまとめていく苦労が、それはそれでドラマとして印象的だ。
そんな主人公が身体能力の高さを見せつけつつ、急造コンビとなった女性にだけ弱々しい本音をもらす場面など、スタローンらしい人物造形だと感じた。


ただひとつ致命的な問題が、最後の脱出ルートにいたる展開だ。
序盤にトンネルの模型で救出方法を検討する場面があるのだが、そこで閉鎖されたと説明された地中宿舎が、トンネル本線が水没して毒ガスも充満しだした終盤で避難場所となる。
避難場所になるまでは誰もが予想できるだろうが、まだ露骨なりに伏線があるから問題はない。まずいのは、全員が宿舎に逃げ、さらなる崩落をさけて違う空間へ移っていった果てに、そのまま地上まで出てしまったことだ。
映画を漫然と見ていれば、登場人物たちは危機をぎりぎりの選択と努力で回避したかのようになっている。しかし全体で考えると、主人公がトンネル内に来た時点で、地中宿舎の情報を示して逃げこんでいれば、そのまま誰も死なずに助かったことになる。
危機につぐ危機を展開して、どんでん返しをくりかえす作品は、最後に判明した真相から逆算した時に中盤がまったくの無駄になってしまうことがよくある。それを回避するには、主人公に情報を持たせなければいい。この映画の場合であれば、主人公は模型の謎の空間を質問しても答えてもらえず、トンネル内の警備とやりとりして終盤に正体を知るという展開にすればいい。あるいは、読書好きの登場人物がひまつぶしにトンネル内の監視所のマニュアルを読みつづけていて、終盤に発見するような展開でもいい。
もしくは、主人公は最初から情報をもっていたが、地中宿舎が完全閉鎖されていて人力では封印された扉にたどりつけなかったという展開でもいい。トンネルの崩落の果てに閉鎖されていた扉が露出したという展開なら、それが現れるまで主人公たちが時間稼ぎした意味があったことになる。