法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『声優ラジオのウラオモテ #03 夕陽とやすみは突き抜けたい?』二月公著

佐藤由美子と渡辺千佳の声優ラジオ番組はようやく安定してきた。そして渡辺が声優の夕暮夕陽として主演するロボットアニメに、佐藤がライバルキャラクターで抜擢されたが……


2020年11月に発売されたシリーズ3作目。アニメ声優としての苦難と奮闘がメインテーマとなり、これまで衝突したラジオや先輩がよりどころとなる。

プロフェッショナルな現場で、それっぽい先輩声優が主人公の佐藤へきびしくあたり、それでも声優として立ちなおろうとする物語をつらぬく。
これまで違和感があったフィクショナルなイベントでもりあげることをせず、ついに仕事現場と日常生活を往復するだけで物語を描ききった。
『声優ラジオのウラオモテ #02 夕陽とやすみは諦めきれない?』二月公著 - 法華狼の日記

周囲に迷惑をかけてでもパートナーを救った1作目の事後処理として物語が展開していったのに、今回のクライマックスではファンと地域にまで借りをつくる展開になったことには首をかしげた。

長編をもりあげるためにはクライマックスに大事件が必要、という固定観念にとらわれちゃっている感じがありますね。

ロボットアニメの主人公と、その存在をつけねらうライバル。作中作として展開されるアニメのキャラクター関係が、そのまま主人公コンビの関係に重なりあう*1。おかげで設定は平凡な作中作の描写も楽しく読めた。
1作目からの人間関係から、そもそもライバルキャラクターは佐藤を意識してつくられた……いわゆる当て書きなのかもしれないと感じたし、そうした情報を佐藤へ開示しないまま物語を終えたのも逆に良かった。


挫折のドラマも、声優に興味がうすい読者なりに、ひりついたスタジオの空気は物語のストレスとしてよくできていると感じたし、いくつかモデルが思いあたる先輩声優も興味深い。
ただ、音響監督の指示に具体性がたりず主人公が迷走していく展開は、そもそも経験不足の主人公に対する演出側の問題ではないかと思った。主人公に親切な先輩たちのアドバイスも内容を文章で説明せず、せっかく地に足をつけたドラマなのに描写の具体性が欠けている。
他にも主人公が直面する苦難の多くは、予想どおり秘められた実力を買われてのことだったが、結末を考慮してもパワハラモラハラと感じざるをえない。いや、理不尽な圧力として描写しきるのならパワハラ展開でもかまわない。しかし実力を認められていたと主人公が理解しただけで、ハラスメント自体の問題が棚上げされて物語が終わったことは感心しない。
読んでいて納得できたのは、主人公が自身のキャラクターにとらわれて、異なるキャラクターを演じることを普段から意識していないという指摘だけ。これは声優として異なるキャラクターを演じるシリーズのメインテーマともつながる、興味深い論点だった。作中で補足されるように、直面している問題をすぐ解消するアドバイスではないので、本筋とからまず終わったのは残念だったが、そこは次巻以降に期待したい。

*1:放映後の作中で、二次創作の百合カップリングがもりあがりそうだな、と思った。