法華狼の日記

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黒柳徹子の自伝小説『窓ぎわのトットちゃん』を、近年の『映画ドラえもん』で活躍した新鋭監督が初アニメ化

 プレスリリースが報じられたのは3月20日。アニメ監督側から映像化を提案され、今年冬の公開をめざしているという。
「窓ぎわのトットちゃん」アニメで初めて映画化へ | NHK | エンタメ

東宝によりますと「読者のイメージを壊したくない」という黒柳さんの意向もあり、これまで映画化はされていませんでしたが、今回、アニメーション監督の八鍬新之介監督がアニメ化を提案したことで実現したということです。

 八鍬監督はシンエイ動画の演出家で、2010年ごろからTVアニメ『ドラえもん』で活躍。若手ながら2017年のTVアニメリニューアルで監督として抜擢された。
『ドラえもん』が大幅なリニューアルがされるとの報道 - 法華狼の日記
 同時に2014年から映画シリーズも3作品手がけて、どれも原作を尊重しつつ娯楽としての完成度も高く、さらに現代的な視点をくわえているところに個性があった。
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物語で原作を踏襲しているため、全体として映像面のブラッシュアップが印象的。『ドラえもん』の初期映画は作画が弱かったこともあり、リメイクするだけの価値は感じられた。

『映画ドラえもん 新・のび太の日本誕生』 - 法華狼の日記

安易な愛国主義になりかねないテーマを、原作にもとからあるモチーフをほりさげて相対化。未開とされる異文明への敬意と、歴史を簒奪しようとする者の必然的な敗北を描いていく。

『映画ドラえもん のび太の月面探査記』 - 法華狼の日記

社会の犠牲になって棄てられた少年少女を、違う社会の少年少女が見返りを求めずに助ける。そのようなストーリーが娯楽性と社会性を密接にむすびつけ、忘れられていく歴史を記憶する物語として完成した。

 しかしTVアニメリニューアルの監督はすぐに降板して各話に参加することもなくなり、映画も2019年公開作品を最後に情報が流れず、なぜか2021年のバラエティ番組で登場しただけ。
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ドラえもん 新・のび太の大魔境 〜ペコと5人の探検隊〜』の3DCG紹介で八鍬新之介監督が登場したことに驚いた。2019年の映画『ドラえもん のび太の月面探査記』以降は名前を見なくなり、ひょっとして業界を引退したのかとも思っていたが、まだシンエイ動画に席を置いているようだ。ひょっとして来年の映画監督として宣伝に登場する予定だったのだろうか。

 予想と違って2021年作品*1の次に公開された2023年の映画でも監督ではなく、不思議に思っていたが、まさかリニューアル監督以前の2016年から別作品の企画を動かしていたとは予想外だ。
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映画化を企画したのは2016年。シリアでは化学兵器によって子どもたちの命が、国内では相模原の障がい者施設で多くの命が奪われました。そのような暗い出来事に触れる中で、アニメーションを通して社会に貢献できることはないだろうかと考えるようになりました。そんな時に出会ったのが『窓ぎわのトットちゃん』です。そこには「生と死」「戦争と平和」「思いやりと差別」など、相反するテーマが雄弁に語られていました。それも、世界中の誰もが理解することができる瑞々しい子どもの言葉で。この瑞々しさをそのまま映像化して世界中に届けることができたなら、今よりほんの少しだけ社会が明るい方向に進むかもしれません。どうぞお楽しみに。

 まだ作品の全容はつかめないが、上記コメントを読むかぎり、今あえてウクライナ侵攻や新型コロナではなく、比較的に注目されていない戦場や、国内のヘイトクライムに言及するところが印象的だ。


 思えば八鍬監督は、これまで手がけた作品からも、しばしば揶揄的につかわれる「意識の高さ」を良い意味で感じさせてきた。
 たとえばTVアニメのリニューアルSPでも戦時下の日本を題材にした原作を手がけ*2、日本の敗戦を平和の到来として喜ばしく語る主人公を堂々と映像化し、暴力的な憲兵描写ともども話題になった。
『ドラえもん』ぼくミニドラえもん/ぞうとおじさん - 法華狼の日記

のび太たちが笑顔で敗戦をつたえるギャップ描写も原作通り。

 誰もが同じような作風になれば説教くさかったり堅苦しくなったり感じるかもしれない。しかし現在の日本のアニメ界においては貴重な作風ゆえの珍しさがあるし、その生真面目さがくりかえし鑑賞できる世界観の強固さもつくりだせている。今回の新作にも期待したい。

*1:新型コロナで2022年に公開が延期されたため、予告的な映像を次作監督が手がける慣例で予想することが2021年の段階ではできなかった。

*2:原作の選定が誰の判断かはわからないが。