幼い少女に見える成人女性たちのオーディションが開かれた。23人から選ばれた3人に子供部屋のセットで12歳を演じてもらい、インターネットにアカウントを開設。そのような少女にあつまってくる成人男性たちの性加害を記録したドキュメンタリ。
2020年につくられ、世界的に話題となったチェコの長編ドキュメンタリ映画。日本でも2021年に公開されてから定期的に話題になっている。
シンプルなテーマのドキュメンタリとしては1時間半以上と長く、性加害の社会背景や解決への動きなども言及していくのかと予想していたが、演じる女性と性欲をぶつける男性と論評するスタッフだけで映画の大半がしめられている。
意外なことは何も起きないのに、けして密度がうすいわけでも単調なわけでもない。最初のオーディション風景からして女性たちが次々に性的な被害の実体験を語り、以降も緊張感がはりつめる。この映画で癒しといえるのは犬だけだ。
もちろん演技であっても現実の性加害をひきうける女性にはスタッフとしてカウンセラーや弁護士が助言するが、あまりのつらさで途中で泣き出すような場面もある。今後に同じ趣向のドキュメンタリを制作する時は、会話は文章に限定したり人工知能をつかったり男性に演じさせるなどして、被害者になりやすい属性の個人が加害をうけとめなくてすむ工夫がいるかもしれない。
加害者の描写にしても、目元と口元をのぞいてぼかしがかけられているが、それ自体が犯罪になりそうな性的な暴言はそのまま流れるし、ぼかしをかけながらも多数の男性器が大写しになるので、鑑賞には注意が必要だろう。一度だけ男性が送りつけてきた少女ポルノも全体にぼかしをかけているだけ。この少女ポルノだけは視聴する女性スタッフの表情などで間接的に見せるなどして、映像にはのせないでほしかった。
さて、準備のためスタジオに子供部屋のセットをつくっていくような場面は楽しさもあるが、リアリティを出すため実際に子供だった時の小道具をあつめて、家族に悲しまれたりもする。
そこからアカウントを開設してすぐ、中年や壮年の男性たちが殺到してくる。インターネットにつながる大多数の男性がそうというわけではなく、新たな少女に欲求をぶつけたい少数の男性が常に待ちかまえているのだろう。そのような待機を可能にさせるSNSの運営にも問題がある。
映画スタッフは女性側から接触したり挑発しないよう、裸の写真などはもとめられても複数回は断るよう、あらかじめルールを決めていたが、わずか10日間で多数の男性が性器写真を送りつけ、カメラごしに自慰をおこなう。秘密にすると約束した写真はインターネットに流して脅迫してくる。
相手が12歳と思っているのに中年男性は自身の魅力がつうじると考えていたり、女性に対する被害者意識を主張して少女と思っている相手に性的欲求をむける。なかにはスタッフの知人もいて、よりによって子供向けの仕事をおこなっている人物だったりする。
ただし序盤で注意されているが、加害してくる男性たちは必ずしも小児性愛ではないという。スタッフとして参加した研究者の説明などによると、せいぜい5%くらいだという。終盤に実際に待ちあわせる場面でも、男性たちは女性が本当に12歳なのかを気にしていない。おそらく相手の弱さにつけこんでいる側面が大きく、小児性愛者の隔離や治療では解決しないだろう。
また終盤で待ちあわせた場所に、男性が女性をつれてきて、いわゆる3Pをせまってくる場面もあった。同行してきた女性も被害者という感じではなく、少女役の女性を説得にかかる。父親が実子に性的暴行をはたらく事件で母親が加担していることもあるし、この事例も男性が主導しているのだろうとは思うが、同性だからといって安易に安心はできないことがわかる。
そして後半に登場する大学生ひとりだけは性欲をむけることを否定して、少女側からそうしても拒絶すると語る。
あまりにひどい男性ばかりを見てきた女性やスタッフは感動的にうけとり、性的目的ではないことが完全に確認されたというテロップも流れるが、少なくない観客が違和感を語っている。
宇多丸、『SNS -少女たちの10日間-』を語る!【映画評書き起こし】 | 無料のアプリでラジオを聴こう! | radiko news(ラジコニュース)
大学3年生で、見知らぬ12歳少女をネットで探して話したがるって、無条件で「いい話」扱いをしていい件なのか?って、やっぱりちょっとモヤりますよね。
たしかに罠に気づいて善良さを装ったか、あるいはひと手間かけたグルーミングの可能性は感じられた。日本でも映画の公開直後に、少女を守っていると賞賛されていた男性が未成年と性交した容疑で逮捕され変死した事件があった。
《トー横の“ハウル”、拘置所で死亡》16歳の家出少女に淫らな行為を…「トー横キッズ」支援の金髪リーダー男32歳、その知られざる素顔とは | 文春オンライン
警視庁少年育成課によって逮捕されたのは、新宿区在住の職業不詳・小川雅朝容疑者(32)だ。小川容疑者は昨年12月と今年3月、新宿区の自宅マンションで、18歳未満と知りながら家出中の16歳の少女に対して淫らな行為をした疑いがある。
ハウルこと小川容疑者は、新宿歌舞伎町の「シネシティ広場」(以下、広場)の清掃や、広場に集まる居場所のない子どもたちの相談に乗っている団体「歌舞伎町卍會」の代表を務めていた。広場に集まる「トー横キッズ」の中には「ハウルに助けられた」との声もある一方で、トラブルもあったとの話もある。
しかしドキュメンタリに登場する大学生は20歳という若さで、他の男性とくらべるまでもなく未成年と大差ない。ぼかしがはずれた素顔も幼さが感じられ、説教の言葉もせのびした若者が語りそうな内容だ。
つまるところ極端な善人や悪人ではなく、インターネットで他人と知りあって後輩的な相手と会話することが好きなだけの若者というのが実際のところかもしれない。もちろん危険性は否定できないし、善性も否定はしないが。
いずれにしても、このような社会問題に関心があれば多数の実例の記録として必見ではあると思った。男性ならば女性の見ている世界との違いを実感する助けにもなるだろう。
ついでに逆説的に連想したフィクションとして、アニメ映画『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』*1がある。主人公が村の女性に個人的な感情などいだかない展開のため、女性を17歳に設定するだけで成立させたのはスタッフの見識だろう。