法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ミンナのウタ』

 ひとりのADが局内の倉庫で未開封の手紙のつまった箱を見つけた。若手アイドルGENERATIONSの小森隼とともに30年前の手紙を開封してみると、カセットテープが出てきた。そして小森がMCをつとめるラジオ番組に、テープを流してほしいというリクエストがとどく。
 直後に小森が失踪。元刑事の探偵に、3日以内に小森を見つけてほしいとマネージャーが依頼する。さっそく探偵はGENERATIONSのメンバーから証言を聞こうとするが……


 2023年8月11日に公開された日本映画。EXILEの派生グループGENERATIONSを本人役で起用したアイドル映画でありつつ、清水崇監督をむかえたことでホラー映画としても評価が高い。

 先日にアマゾンプライム見放題にはいって視聴しやすくなったが、映画として不完全なかたちで視聴しないよう、設定の自動再生は切っておく必要がある。


『犬鳴村』*1からの恐怖の村シリーズで興行的に復活しつつも評価が高いとはいえなかった清水崇監督の、完全復活作。
 まずアイドル映画というフォーマットをバランス良く活用している。登場するアイドルは最低限の演技ができているし、キャラクターも明確で区別しやすい。マッチョ系の関口メンディーが一番の怖がりだったり、不思議ちゃんアイドルの中務裕太が微妙な霊感持ちだったり、ホラー映画で珍しいキャラクターがちゃんと作品の個性と新鮮な恐怖を生んでいる。
 ダンス練習や大規模なライブシーンも本物の人気アイドルならではの説得力。しょぼくれた中年探偵がホテルできどっている場面がカラオケ映像のようになるギャグも笑った。ホラー愛好家にはアイドル向けファンサービスと解されがちなライブシーンも、物語として意味があるし、北野武版『座頭市』のような映画の文脈にそっている。
 死体が転がるのではなく人間が消失する事件にして、対象を不祥事をおそれるアイドルにすることで、私立探偵が秘密裏に調査するタイムリミットサスペンスを成立させているところも地味にうまい。明らかな事件が起きても警察に相談しないことに説得力があるし、下手に死という明確な結果を見せるより先行きの見えない不安感がある。
 EXILEの芸能プロダクションLDHならではの潤沢な予算も、近年のJホラーでは珍しく隙のない映像につながっている。セットは大きくて汚しもていねいに、住宅地のロケは別作品で見たことがない雰囲気ある場所をさがしだしている。撮影時の光量不足も感じない。自動車の移動シーンも自然に撮影。VFXや特殊メイクの質感も問題ない。


 ホラーとしては自作や関連作や古典のセルフオマージュやセルフパロディを多用しつつ、きちんとアイデアを追加して怖さを増している。特に『呪怨 白い老女』*2の「ちょっと手がはなせない」を、奇妙な味わいの怖さにとどまらず、観客の意識誘導に活用したところがすごい。
呪怨』シリーズで多用していた肉体損壊をほとんどつかわず恐怖を演出できているところも感心した。恐怖描写が多いのにアイドル映画らしく低年齢でも視聴できる。流血といえば少女の手の傷くらいで、死体は皮膚が変色するだけで五体満足。肉体が損壊するような死体は映像として見せずに音だけで観客に想像させる。「俊雄」も名前がセルフパロディというだけで、完全に消費されて笑いの対象になった白塗りはやめている。
 真相はシンプルでほとんど一直線に解明されるが、呪いの根源の動機に意外な逆転があり、そこからホラーのジャンルが変わって恐怖が増大する。出没する少女の不気味な美少女ぶりと、その母親の存在感ある恐ろしさは俳優の力もあるだろう。