法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『世界まる見え!テレビ特捜部』ピンチを乗り越えて3HSP

 2024年初の放送。他番組のSP化にあわせて内容をよせあつめたような作りで、良くも悪くも特番感はない。
 ただ紹介されるドキュメンタリの質は全体的に良かった。


「カメラがとらえた信じられない瞬間」は、監視カメラが個人店などにも設置されることが普通になった現代の、さまざまな災害の情景を多角的に紹介。番組の前半と後半にわけて放送。
 ここ数年の大火災や大洪水、火山爆発などを一個人の視点で切りとり迫真性を出しつつ、客観的な映像もまじえて状況を理解しやすい。
 特に米国のモンテシトにあるアンティークショップが印象的。洪水に対して扉をしめて店内で待機していたら、次々に浸水してきて水の圧力で扉を開けることすらできなくなるという、少しずつ悪化する状況に後手後手になるしかない無力さを感じさせた。


「ボーダーセキュリティー」は米国の国境検問所や空港税関の事例を紹介。
 インドから来た偽ブランド衣服を大量にもっていた女性が、息子へのプレゼントだけ自分の工場でつくったと判明。とはいえ偽ブランドは見逃せないので、コピー品を目の前で切りさいて処分し、無罪放免となった。
 ガーナから来た黒人男性が挙動不審なので不法就労の可能性があると判断。滞在中に新規プロジェクトにかかわるらしいが、問いつめてみるとリモート会議に出席しないといけないと判明。不法就労になると恐れて挙動不審になっていただけだった。現代的な事例だし、国によっては判断がわかれそう。
 路面凍結をふせぐための岩塩が付着して、放射線を感知した事例なども天然の放射性物質が付着する問題として興味深かった。


「ペットヒーロー」は、犬や馬などが飼い主の命を救ったさまざまな事例の紹介。
 犬や猫が主人の異変を周囲につたえたのは本能的な行動としても理解できるし偶然でも説明できそうだが、他人になれない馬が他人を乗せて走った例などは映像的な面白味があった。


「王立救命艇」は、以前にも紹介されたイギリス王立救命艇協会の活躍を紹介。
 満ち潮で切りたった海岸の途中に孤立した人々を救おうとするが岩が多くて近づけず、救命対象はがまんできずに海にとびこもうとするので制止せざるをえなかたったり。
 興味深かったのは協会に新たに参加した夫妻で、妻は元海軍で海になれているが夫は文化的で海になれない。なぜ夫は現場員として参加したのか。しかし救命艇に同乗して救命対象を発見する先輩の眼力に驚いたり、救命対象がたまたま知人の女性だったりと、人間模様の面白味はあった。
 他に崖から消えた犬を捜索。飼い主がさがして二次被害がおきることを防ぐためには、ペットを全力で救出することも重要。せまい入り江で犬を発見してボートに乗せたが、狭すぎて引き潮になると出られず、ゴムボートなので空気をぬいて小さくした工夫がおもしろい。


「幻のエベレスト初登頂」は、これまで1953年におこなわれたと思われていたチョモランマの初登頂が、実際には1924年に達成されていた可能性をさぐる。
 その1924年の登山家の遺体が1999年に発見されていたことも、登山家のひとりが「なぜ貴女は登るのか」「そこに山があるからさ」のやりとりで知られるマロリーということも初めて知った。
 もちろん登頂後に生還まではたした1953年の栄誉が消えることはないが*1、多くの犠牲者を出しながら登頂を何度もこころみたマロリーという冒険家の半生ドキュメンタリとして興味深く鑑賞した。


絶滅危惧種 キタシロサイを救え」は、雄としては世界で頭しかいないキタシロサイと、その世話をする飼育員のドキュメンタリ。
 雄のキタシロサイは名前をスーダンといい、人間でいえば90歳くらいの老齢。雌は2頭いるがスーダンの娘と孫なので繁殖は難しい。サイの角はアジアで高価な薬とされて密猟の対象になり、1990年代から急速に姿を消してしまった。
 飼育員のひとりは生活のため仕事をしているだけというが、それでもスーダンのおかれた状況のつらさを思いやり、本当は野生ですごさせてあげたいと語る。
 幼い別種のサイと同居して少しスーダンが元気になったかと思いきや、幼いサイが亡くなってスーダンは元気をなくす。そしてスーダンは2018年に死去。動物の立場に限界までよりそいつつ、人類の罪深さを感じさせる、真面目なドキュメンタリだった。


「ナパーム弾の少女」は、1972年に撮影されたベトナム戦争を象徴する少女の写真について、どのように撮影されたのかという経緯や、その後の出来事を紹介。
 さすがに写真自体は何度も見たことがあるし、少女は重症の状態から生還して大人になったことも知っていたが、撮影したカメラマンがベトナム人だったことなど知らない情報が多かった。
 同時に映っていた他の子供たちと同じく少女は寺院に逃げこんでいたという説明や、その寺院がナパーム弾で爆撃されるカラー映像、応急処置される映像、撮影者たちが必死で少女の治療を要求したことなど、多角的な情報によって出来事の解像度があがる。成長した少女が平和をうったえる活動をしている。ウクライナやガザの現状を思い出して*2、活動のたいせつさを強く実感した。
 検索すると、撮影から50年後にあわせて朝日新聞記者が講談社から少女にまつわる書籍を出していた。文春オンラインで読んだ抜粋記事*3だけでも解放軍へのアンビバレンツな視点があったり、番組をさらに超える情報量で読みごたえがある。

*1:むしろヒマラヤ登山に協力するシェルパが記録に残らない初登頂をおこなっていた可能性の高さを留意するべきだろう。

*2:2022年のインタビュー記事で実際にかさねあわされている。聞き手は後述の朝日新聞記者。 ベトナム戦争「ナパーム弾の少女」 苦難、亡命、ウクライナへの思い [ウクライナ情勢]:朝日新聞デジタル

*3:「助けて、孫を助けて」老女の手には全身火ぶくれで皮膚もずるりと剥けた3歳の少年が…悪魔の兵器“ナパーム弾”の最悪 | 文春オンライン