法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『運び屋』

 アール・ストーンという老人が、家族をないがしろにしながら花農家に人生をささげて業界で名声をえていた。しかし時代の変化についていけず、農園がさしおさえられて、スタッフも解雇することに。
 しかし孫のパーティーで出会った若い男から、奇妙な仕事があるとつげられる。その口車に乗ったアールは、愛車に乗って謎の荷物を遠くまで運び、大金を手にするようになるが……


 クリント・イーストウッドが監督と主演をつとめた2018年の米国映画。ニューヨークタイムズで実際に報じられた運び屋の老人がモデルだという。現在はプライムビデオで会員見放題。

 致命的なネタバレは避けていたが、あまり良くない評価ばかり見かけていた。映像ソフトなどのキービジュアルが老人の横顔を映したモノクロなので、もっと陰鬱な一本道のロードムービーとも思っていた。しかし実際に見ると『世界まる見え!テレビ特捜部』で紹介されるような珍事件のクライムコメディ化といったところ。


 イーストウッド作品はヒーローというものの新たな側面を見せていく。今回の主人公は、家族をないがしろにしながら、その場その場ではかっこうをつける老人。差別意識をあらわにしながら道端で困っている黒人家族を危険をおかしてでも助けてやるし、自分を監視するマフィアに人生のアドバイスをしてやる。マフィアのボスとも自身を追う警官とも友好的に会話をする。
 その場その場で発揮される善行で意図せず危機を回避したりして、それがサスペンスとしての面白味を生んでいるが、それはしょせんその場しのぎでしかない。そんな愚かさを自嘲まじりに描いたエンタメとして、予想外にライトに楽しめた。個人が葛藤する局面がほとんどなく、主人公もさまざまな出来事に驚いたりしつつ迷うことなく目前の危機を切り抜けていく。クライマックスで主人公が葛藤する場面ですら、あまり引きのばさずサックリ見せる。
 名俳優が自身を投影した感動作と思って見るといろいろな意味で微妙な評価になるのもわかるが、珍事件を職人監督が再現ドラマ化したと思えば気軽に楽しめて悪くない。