大蛇と化したダークヘッドだが、プリキュアの総力に圧倒されカイゼリンにも拒絶される。そこでダークヘッドはプリキュアにとって最も嫌なこと、ソラシド市への侵攻をくわだてるが……
金月龍之介シリーズ構成の脚本に、キャラクターデザイン斎藤敦史の単独作画監督。絵コンテは横内一樹と柴田匠が共同で、新人の大垣愛結が演出を担当。
見ながら思い出したのが、シリーズ2作目にして実質的に1作目の2期にあたる『ふたりはプリキュアMaxHeart』の最終回。それと良い意味でも悪い意味でも似ている。
最終回らしくリソースがそそぎこまれて、すみずみまで力の入った映像。これで最終回という覚悟を感じさせる声優の演技。ガールズアクションアニメとしては満点の充実したバトル。
子供向けアニメらしく教訓的な言葉を主人公が敵に対して投げかけて、これまで戦いの場から遠ざけられていた群集がいきなり侵略に抵抗できる存在として位置づけられる。そして平和な日常にもどっての情感あふれるドラマと、気持ちの良いエピローグ。
単独エピソードとしてとりだすと良い最終回のように思えるが、1年間をかけた物語のピリオドとしてはとってつけたよう。作品全体をふりかえると、結末から逆算した構成になっていない。
ここから作品全体をふくめた感想になるが、まず序盤でフォーマット構築に失敗し、情報も隠しすぎて後半まで間延びしたストーリーがつづいてしまい、終盤で開示された魅力的な描写に蓄積が足りなかった感が強い。
実のところ『プリキュア』シリーズ全体も、特に初代は急いで立てられた企画であり、当初は半年で終了する可能性すら想定されていた。そのため展開のそこかしこに不協和音が感じられたし、シリーズのフォーマットを完成させるまで時間がかかった。
東映の少女向け制作リソースで1年間をとおしてアクションアニメを展開することにも無理があった。初期もいくつかの突出したエピソードはありつつも、全話に安定して見所がある作品となると『ハートキャッチプリキュア!』以降からだろう。
今作は京都アニメーション出身のアニメーターがキャラクターデザイナーとして採用された。最終回のようにすみずみまで作画に気をくばったエピソードやOPEDの繊細な表情は良かったし、キービジュアルは頭髪や衣服の流麗なフォルムがシリーズの過去にない魅力があった。しかし現状の東映のリソースでは表情などにキャラクターデザインの個性を出しづらく、逆にいえばリソース不足でも成立するデザインになっていなかった。
物語にしても、情報のうすいエピソードが目立った。第44話からはクリスマス回をのぞいてシリーズ構成ひとりが脚本を担当して、カイゼリンという女帝がなぜスカイランドを襲うのかという謎をめぐる連続ストーリーでは面白いものを見られたが、それにかかわる情報をなぜ終盤まで出さなかったのかという疑問は作中でも作外でも解消されなかった。
かつてスカイランド王国と和平を達成しながら関係が破綻したアンダーグ帝国が、王女エルの誕生にともなって再侵攻したという背景設定は、序盤から視聴者に開示するべきだったろう。
たとえば、鎖国したアンダーグにプリキュアが突入できず、スカイランドやソラシド市で破壊工作をする尖兵にプリキュアは問いただすがカバトンたちは上層部の考えを知らず、スキアヘッドは回答を拒絶する、それでも潜入者として社会に根づいたりした尖兵たちは少しずつプリキュアに知っている情報を話していく、といった展開にもできたはず。いや、おそらくシリーズ構成の段階ではこれを意図していていそうな気もするが、中盤までアンダーグという国家が存在することすらあやふやで、開示される情報が遅すぎ少なすぎた。逆にスカイランド側で歴史をしらべようとする努力もしていなかった。
実際にカイゼリンのドラマを描きはじめたのは終盤の半クール、先述した第44話以降から。その時点で展開が遅すぎると思わざるをえなかった。
『ひろがるスカイ!プリキュア』第44話 大きなプリンセスと伝説のプリキュア - 法華狼の日記
同じ展開をせめて半年前にやってほしかった。敵首領が全身をあらわすのも、攻撃の理由をにおわすのも今回が初めて。対話しようとするプリキュアとの対比を描きたいにしても、これまで敵が情報を発信しなさすぎて、対立する意思が衝突するドラマにならなかった。
連続ストーリーとしても、ダークヘッドがカイゼリンへの愛を嘘と明かさないほうが良いのではと前回に思ったが、今回にあらためて愛を語ってとりこもうとした描写で確信に変わった。
『ひろがるスカイ!プリキュア』第49話 キュアスカイと最強の力 - 法華狼の日記
愚かな教え子として愛しているという嘘を自分自身で信じながら傷つけるドラマのほうが良かった気がする。
そもそもスキアヘッドの登場は遅く、視聴者に印象づけるほどカイゼリンへの愛を語っていなかった。説得力を感じない言葉をひっくりかえされても衝撃は感じない。
そのように連続ストーリーの伏線になる描写も少ないし、世界観をかためる一話完結エピソードも多くなかった。描かれたドラマの総量からすると、2クールが適度な作品という印象がある。前半から中盤までの3クール半を1クールに圧縮して、終盤の半クールを1クールにひきのばすくらいが良いのではないか。
最後まで見終えて、ファンタジー世界を舞台にしながら国家間の不信と信頼そして戦争と和平を真面目に描こうとした寓話だと思えるだけに、もう少し全体のバランスを整えて、まのびしない力強いドラマを描いてほしかった。
あえて現在に放映される意義も感じるからこそ、とても惜しい作品だと思っている。