法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

「ネット界隈で騒がれている自衛隊の災害運用に関しては全てにおいて完全論破出来る」と自認する元自衛官の武若氏のツイートを読んでいって首をかしげた

 元自衛隊*1でヘリボーン経験者でもあるらしい武若雅哉氏のツイートをまとめたTogetterが注目をあつめていた。
大規模災害時の物資、自衛隊派遣に空挺降下は出来ないのか? - Togetter


空挺降下や物料投下云々について、「日本語」が読めるヒョロワー向けに実際に「できるのか」「できない」のか。「やるのか」「やらないのか」を書いてみる。なお、お客様がいらっしゃったら途中で途切れるので、その辺りはご了承を…。


なので、従来通りの輸送手段で運ぶのが一番。これが一番確実だし、全てが被災者の手に渡る。なので、道路の復旧に全力を尽くしているし、残り少ないルートを塞がないように、一般人は立ち入るべきではないということですね(撮影協力:陸上自衛隊航空自衛隊在日米軍

 しかしTogetterにまとめられた範囲では、空中からの降下や投下について否定しているだけだ。
 はてなブックマークで指摘されているように、なぜかヘリコプターで着陸したりロープで懸架する選択肢は検討せずに「従来通りの輸送手段で運ぶのが一番」と語っている。
[B! 災害] 大規模災害時の物資、自衛隊派遣に空挺降下は出来ないのか?

id:oka_mailer 普通にヘリで着陸して下ろせば良いんでないの。

 もちろんTogetterにまとめられていない範囲で語っている可能性もあるので、いくつかツイートをさがしてみたが、予想以上に首をかしげる結果となった。


 まず「完全論破出来る」という自認を見て驚いた。専門家が専門分野で論争している時でも、めったに見ない表現だ。


とりあえず、ネット界隈で騒がれている自衛隊の災害運用に関しては全てにおいて完全論破出来るが、面倒なのでしない

 上記Togetterで反論されている空中投下もふくめて、自衛隊の災害運用が騒がれているのは、根本的には支援が不足しているという不満からだろう。別の適切な手段があると反論しても需要の存在までは否定できず、原理的に完全な論破は難しい。
 それでも上記のように断言していたからには、元関係者なりに状況をくわしく知っているのかと思いきや、やがて実際を知らない立場からの予測と公言するようになった。


うまく結論付けられないけども、積極的なヘリボンが行われないのは、自治体からの要請がないからではないだろうか。できる能力はあるが、届けてほしい物資を自治体が持っていなければ自衛隊は運ぶ物が無い状態なのである。なお、これは予測なので、実際にどうなっているのかは知らない。

 上記ツイートはヘリコプターの利用が積極的ではないことを前提の事実としているし、そこから自治体の要請がないと予測したことは自衛隊に責任がないという主張にすぎない。自衛隊の災害運用に疑問があることを認めているようなものだ。
 ヘリコプターなどの空輸にかぎらない。護衛艦がなぜ派遣されないのかという疑問に対しても、他に何かやることがあったのだろうと考えるばかりで、具体的な反論はできていない。


能登半島にDDHを派遣しろ、と。なんで派遣しなかったのかは知らないけど、考えられるとしたら、それ以上に対応せねばならない何かがあったんじゃないか?


なんだ、LSTが出ているではないか。十分な機能を持ったLSTがいるなら、わざわざDDHを出すまでもないな。DDHはLSTでは出来ない分野で活動してもらえばよろしい

 他の護衛艦が派遣されていることは、もちろん被災者への支援が不足していることから生まれた要求への反論にはならない。新たな派遣が先行する活動を阻害するという事例というわけでもない。
 それでいて、空挺降下に限定せず、ヘリの投入をもとめることまでふくめて「病気の類」とも主張している。


あー、わかった。能登半島に空挺降下しろだの、ヘリをもっと投入しろだのいう人たちは、事故が起きて欲しいんだな。そういう事よね。で、事故が起きたらまたそれを叩きたいワケだ。もうね、そういう人たちなんですよ。病気の類だから、相手にしなくてよろしいね

 どのような意見が殺到したのかは確認できないものの、被災地からもヘリをつかった救援がもとめられている以上、元自衛官として上記のような反発はさけるべきだろう。


 前後したツイートで、災害のただなかでも国防を重視すべきという考えも明らかにしている。これは自衛隊の立場としては正直な本音かもしれないが、どちらかといえば拒絶であって論破ではない。


そもそもだ、警察も消防も保安庁自衛隊も、全力投入したら警備の空白地帯が出来てしまうのですよ。そうなると、被災地以外で通常の生活をしている人達が困る。国防に関しても空白地帯は作れない。それに、部隊を受け入れる場所がなければ、完全自己完結の組織でも活動できない。つまりバランスが大切

 戦力の誇示を優先するために、自衛隊のリソースを災害派遣ではなく公開演習にさいたのだとも説明している。支援不足が騒がれている状況で余裕をアピールしても逆効果な気もするが。


能登半島地震で大変なことになっているのはわかるのだけど、空挺団とその他の支援部隊が習志野で公開演習やって防衛大臣も出てきたってのは、それだけ部隊に余裕があるって事を内外にアピールするって目的もあるのよね。まだまだ戦力はありますよ、と。これってすごく大切。特に“周辺国”相手には


仮に能登半島に全力集中させた場合(出来るけどしない)、奴らは隙を突きに来ますよ。往々にして自然災害が発生すると“周辺国”は見に来るから。何を見るか?色々と見ていますよ


 そしてこうしたツイートを読んでいた時、辺野古基地建設への反対運動に対しては、無人の瞬間が存在することを武若氏がおかしがっていることも気づいた。


ずっと座り込みしていたんじゃないの?誰もいなかったの?ん?


辺野古の座り込み看板、突然なくなる 抗議日数を記録 製作者の男性「心当たりある人は返して」 - 琉球新報デジタル

 上記ツイートだけで判断するかぎり、一年以上前に西村博之氏が主張して、さまざまな角度から批判された安易な思いこみと変わりない。
とぎれなく座りつづけることを「座り込み」の辞書的定義と考える人は、公民権運動を知らないのだろうか - 法華狼の日記
 それに武若氏は軟弱地盤の辺野古基地建設にそそがれているリソースは気にならないのだろうか。武若氏が否定する能登半島地震への派遣増強とくらべれば無駄な行為としか思えない。もっとも元自衛官にとっては、市民生活より国土防衛を優先することに一貫性はあるのかもしれないが。

*1:乗りものニュース」のプロフィールによると、2003年から約十年間自衛隊につとめていて、現在は軍事フォトライターとのこと。 trafficnews.jp