法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『モンスターストライク THE MOVIE はじまりの場所へ』

 モンスターを戦わせる競技で、焔レンのひきいるチームでひとりだけ古くからの知りあいではない影月明がなじめず、脱退しようとした。しかし異変がおこり、影月は四年前の世界に飛ばされる。そこでは幼いころの焔チームがモンスターの実験に協力してた。そして謎の陰謀にまきこまれた焔たちは逃亡することになり、影月はつかずはなれず支援をはじめる……


 2016年公開の、ソーシャルゲームモンスターストライク」をアニメ化する企画の劇場版1作目。監督は『ガンスリンガー ストラトス THE ANIMATION』『はねバド!』等の江崎慎平

「モンスター」の描写はクオリティの高いトゥーンシェード3DCGが基本。しかし日常シーンは『ドラえもん』で活躍して最近公開の映画『窓ぎわのトットちゃん』*1も絶賛されている金子志津枝キャラクターデザイナー総作画監督にむかえ、ハイクオリティな手描き作画で子供たちの旅路を描いた。


 YOUTUBEで展開された連続シリーズ1期目を受けた物語らしいが、劇場版だけを視聴しても支障を感じなかった。「モンスター」を戦わせる競技をおこなう現在から導入して、キッズアニメになれた観客に世界観をつたえつつ、競技をめぐるやりとりで主人公たちのキャラクターや関係性を手早く説明。そこから時間移動で過去にもどって本編をはじめて、「モンスター」の実験をめぐる陰謀劇に巻きこまれた主人公たちのドラマを描いていく。
 現在パートと過去パートの登場人物がいりまじり、たがいの情報不足によって自然な台詞で状況や設定を説明しつつ、敵味方それぞれが目的に向かっていく構成が見事だ。


 良い意味で黄金期のスタジオジブリを思わせる作品でもあった。
 念のため、スタッフの共通点といえば脚本の岸本卓が元ジブリ関係者というくらいで、他のジブリ風アニメのようにオマージュを多用して既視感に満ちているわけではない。日常的な動作をたいせつにしつつ、どこまでも登場人物の視点で広い世界をきりとって、主人公の選択と行動で物語が進んでいく……そういう映画の原則を守ろうとする姿勢が似ているのだ。
 廃墟となった球場で大人たちの研究に協力する、秘密基地のような楽しさがある序盤。陰謀を知って逃げ出してからは、線路を歩いたり雨宿りしたり、出会った人々に支援されたり衝突したりするロードムービーに時間をたっぷり使って心地よい。薄汚れた生活空間や、それでも美味そうな食事をちゃんとアニメとして表現できている。父親が欠落している主人公の立場がチームにさざなみを立てるだけでなく、ロードムービーで出会う父子とかさなるドラマもおもしろい。そこに未来では主人公チームでひとりなじめなかったクールな少年が、過去に時間移動してから敵の危険を知る年長者として独立して奮闘するドラマを担当して、良いアクセントになっている。
 自衛隊*2の位置づけも良い。個々の隊員は子供を攻撃することにはためらう大人でありつつ、命令されれば追うことにためらわない。一般市民側も、住宅街に車両が大挙してくることを子供は喜ばないし、逆に戦闘を忌避するわけでもなく、単純に生活に邪魔な存在として嫌がる。死体のように血だらけで倒れた大人の描写もあれば、自衛隊による攻撃で子供が少しだが血を流す描写もあり、ファションではない死の臭いがただよっている。ミリタリー描写も適度にディテールが細かく、だからこそヘリコプターの威圧感も雰囲気たっぷり。軍事との距離感が良い意味で宮崎駿のようだった。

*1:hokke-ookami.hatenablog.com

*2:正確には「特務自衛隊」で、劇中でも訂正する会話がある。