法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『GATE 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり』の、せまい世界観と段取り不足

現代の東京に、突如として異世界との通路「GATE」があらわれ、中世欧風ファンタジー世界からの侵略がはじまった。
はやばやと自衛隊が撃退し、たまたま避難を誘導した主人公は昇進したのだが……


2006年から書かれたWEB小説を原作としたTVアニメ。とりあえず第1話だけ視聴した。
TVアニメ『 GATE(ゲート) 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり 』公式サイト
原作は未読で、WEB公開されているコミカライズの第1話と途中だけを読んだことがある*1
ゲート 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり | アルファポリス - 電網浮遊都市 -
京極尚彦監督のコンテ演出はサンライズ出身だけあって悪くなく、『東京魔人學園剣風帖 龍龍*2や『マルドゥック・スクランブル*3で知られる中井準デザインは素晴らしく、それなりに映像面では楽しめた。手間をかけているわりに動いてみえない『ケイオスドラゴン 赤竜戦役』などに比べると、まだアニメとして見ていられる。
しかし物語については、同じようにファンタジー世界との通路が日本にあらわれた設定の『アウトブレイク・カンパニー』が、どれほど洗練されていたかを思い知らされた。


主人公は非番の自衛官。たまたま異世界からの侵略にまきこまれて一般人を救いながら、皇居に「国民」を避難させようと警察と折衝する。そして避難できてすぐ、自衛隊異世界の騎兵やモンスターを撃破する。
前世紀に流行した仮想戦記の、最も安っぽいパターンの作品を思い出す。ただ味方を強く設定して、弱く設定した敵を撃破するだけ。だから映像のわりに戦闘があっさりした印象で、怪獣映画のような面白味が薄い。
思いつきのような行動があっさり効果をあげるだけで、意外な展開が何もない。さまざまな段取りが必要そうなところは、説明も工夫もなく省かれる。


まず、大都市にいきなり敵があらわれたなら、そこにいるのは普通に考えて「国民」だけではない。外国からの観光客も留学生もいるだろうし、外国企業の社員だっているだろう。自衛隊が動くころには、各国大使館や在日米軍基地も反応できているだろう。
なぜ「GATE」を日本政府が単独で管理できているのか、TVアニメ第1話からはつたわらない。たとえば主人公側が広く民間人を助ける一方、諸外国機関の反応が遅れてしまう段取りを描けば、日本政府が「GATE」を単独管理できるエクスキューズにもなったろう。
外国にかぎらずとも、マスメディアやインターネットをとおして、さまざまな情報がとびかうはず。人的被害によって政府への求心力が高まることは自然だが、その反動も少なからずないと不自然だ。
登場人物のせまい視野が、そのまま物語の世界観をせまくして、展開まで単純にしている。あえてせまい範囲のドラマを切りとったというつくりでもない。


ちなみにコミカライズ第1話を読み返すと、避難において「国民」という表現はつかわれていない。しかも自衛隊異世界派遣において、TVアニメでは米国政府から支援声明が出ただけだが、コミカライズでは中国政府の牽制声明も描かれている。わずかな描写だが、今後に世界観を広げるための足がかりがちゃんとある。
先述の『アウトブレイク・カンパニー』でも、異世界との通路は日本政府によって隠されており、マスメディアにも知られず単独管理できる理由がわかりやすい。通路の設定もそれなりに練られていて、なぜ敵が逆侵攻されないよう「GATE」を消さないのかといった疑問をおぼえることもない。
GATE 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり』にしても、たとえば大規模な実弾演習を自衛隊がおこなっている中心に「GATE」があらわれ、自衛隊が無意識のうちに侵略者を全滅させてしまうというブラックな展開であれば理解できた。自衛隊が展開する速さや、敵を攻撃する段取りを説明しなくてもいい。内外に知られることなく「GATE」を管理し、まず派遣することで既成事実をつくる展開も納得しやすいだろう。


また、主人公が主張するほど皇居が適切な避難場所とは見えない。かつて江戸城だったという説明そのものは一般常識だから省いてもいいが、そもそも江戸時代の防備を超えられないような敵ではない*4

そう、飛行するワイバーンもいるからこそ戦闘ヘリが活躍できるわけだが、逆にいうと皇居のような開けた場所に避難するべきとは感じられない。それを主人公は見ていたはず。
ここは読み返したコミカライズの冒頭も大差はない。しかし皇居に避難するあたりから敵は中世の騎士しか姿を見せず、投石器で攻城するため、ごまかしがきいている。

それに主人公はTVアニメより興奮しており、必ずしも判断が適切ではないようにも読める。自衛官という身分を前面に出している違いもある。警察の現場会議に参加していることも、主人公の活躍を増やすにとどまらず、警察も避難民を守るために頭を使っている描写になっている。
原作通りなのかはわからないが、TVアニメでは、何も気づいていない一般人と主人公を対比していた*5。警察も踏み台として弱く描かれていた。主人公が周囲より冷静で先読みができるかのように描きたいなら、そう感じさせるだけの中身がほしい。

たとえば、主人公はワイバーンだけは目撃しておらず、中世レベルの騎士やモンスターだけが敵だと誤認していればどうだったろう。
皇居の塀の内側に入って胸をなでおろしたところ、上空をワイバーンの影がよぎる。主人公が判断の誤りに気づき、避難民への虐殺がはじまろうとする寸前、戦闘ヘリの攻撃でワイバーンが落とされる……といった展開にすれば、ずっと自衛隊の装備や組織の活躍が印象づけられたのではないか。


結末の自衛隊派遣も納得できない。諸外国に牽制される前に既成事実をつくりたいという意図すら作中で示されない。それにもし既成事実が目的だとしても、派遣より先に検討するべきことがあるだろう。
敵はモンスターだけでなく、何らかの言葉を話す騎士がいる。どう考えても捕虜にして情報を引きだすことが先だ。モンスターにしても、生死を問わず調査研究だけで物語のひとつやふたつは書けるはず。この自衛隊派遣の早さはコミカライズも同じで、首相が演説内で自覚的に「強弁」という表現をもちいるくらいの違いしかない。
もちろん、描かれていないことが作中で存在しないとはいいきれない。そうした段取りは原作に書かれていて、コミカライズやTVアニメは省略しただけかもしれない。しかしその段取りを省略したために、異世界への自衛隊派遣を正当化するため、かたちだけ異世界から先制攻撃をさせたように見えてしまう。どれほど防衛で活躍しても、大規模な軍事行動を正当化するのは難しいものだというのに。
しかも侵略の復讐としてさえ、コミカライズで描かれた異世界の被害は大きい。交渉が目的という建前をかかげるには、自衛隊が稚拙で愚昧にすぎる。TVアニメではどうするのだろうか。


個人的な望みとしては、きちんと自衛隊プロパガンダアニメにしてほしかった。
視聴してフラストレーションがたまってしまい、思わず『よみがえる空 -RESCUE WINGS-』を見返したほどだ。ちなみに1エピソードが完結する第3話まで、YOUTUBEで公式に無料配信している。
YouTube
この完成度を望むのは、いささか期待しすぎだとも思う。しかし、現代都市に敵があらわれて自衛隊が活躍する物語なら、映画『ガメラ2 レギオン襲来』『ULTRAMAN』等々の有名作品がある。それらを参考にするだけでも違ったろう。

*1:なので、自衛隊のリソースで異世界を自由に改変していくことを見どころとした作品らしいことは理解している。その場合、自衛隊異世界にいく発端に物語としての意味はあまりない。

*2:『東京魔人學園剣風帖 龍龍 外法編』視聴完了 - 法華狼の日記で簡単な感想を書いたが、本格的な感想を書こうとして手つかずのまま。

*3:第1部の感想はこちら。『マルドゥック・スクランブル 圧縮』 - 法華狼の日記

*4:7分21秒。キャプチャ画像は、以降もふくめてバンダイチャンネルから引用。GATE 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり | バンダイチャンネル|初回おためし無料のアニメ配信サービス

*5:7分28秒。