弘前行きの高速バスにひとりの老女が乗り、杉下右京が隣席に座る。杉下は老女へしきりに話しかけながら、二課の課長や亀山と連絡をとりあう。一課が追っている強盗事件、杉下と亀山が目撃した女性拉致事件と現場にいあわせた老女をめぐって、謎めいた旅路がはじまった……
シリーズ初期の傑作回「ついてない女」*1を思い出させるシチュエーション。しかし杉下が老女を怪しんでいる経緯と、亀山が別行動している理由は早々に明らかにされるし、そこそこ有名な犯罪者だったことで老女の正体も前半の時点で判明する。
とはいえ、東北の貧困な家庭から上京して繁華街で成功し、しかし犯罪者に身を落としてしまった老女のドラマとして普通によくできていた。短い回想シーンも力を入れて雰囲気がある。
そして解決編における吐露で、天才詐欺師とされた老女が、実際は繁華街でえた知識を利用して大金をかすめとっただけで、特段に知恵がまわるわけではないと位置づけられたところも印象的だった。
直前に老女こそが他者に決定的に騙されていたというどんでん返しがあり、さらに刑務所生活で致命的に社会の知識を失っていたことがつきつけられているだけに、犯罪に手をそめた愚かしさと虚しさが印象に残る。
もうひとつふたつトリックやどんでん返しがあっても良いが、今回くらいでも内容に過不足なくて悪くない。