法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『相棒 Season19』第11話 オマエニツミハ

区役所で福祉を担当する好青年が撲殺される。目撃したホームレスによると複数犯で、ひとりは足をひきずっていた。
やがて特命係にフリージャーナリストが接近してきて、好青年の恥ずべき過去が報道で明らかにされていく。
そして少年犯へ復讐をはたしたらしい容疑者が一課の目前で自殺するが、以降も事件は終わらない……


元日スペシャルとして2時間16分枠で放映。
監督は権野元。おそらく新型コロナで多数のエキストラがつかえないなか、撮影の工夫でスケールを感じさせていたのは良かった。
謎の火災現場らしき場所で杉下右京がたたずんでいる冒頭や、撲殺死体の発見現場でドローンを活用。複数の消防車を集めたり、殺人現場の周辺にホームレスのテントやラクガキで雰囲気をつくったり、美術にも力が入っている。
冒頭の火災現場は明らかな廃工場なので、TVドラマらしく住宅地に見立てたのかと思ったら、劇中でも廃工場で起きた事件ということが明らかにされた。
パルクール的な飛び降りや、ちょっとしたアクションも動きが良くて、今回は物語に必要とされる絵作りは充分以上にできていた。


しかし物語はまったく感心できなかった。
犯人に告ぐ』『脳男』等の犯罪映画を多数監督している瀧本智行*1による脚本で、被害者遺族による少年犯罪への復讐を描いたのだが、問題意識が二十年は遅れている。
さすがに少年犯罪や凶悪犯の増加はメディアの印象づけによるもので、実際は減少していることが杉下に指摘される。しかし、未成年は重い罪にならないと「少年A」が甘く考える古臭い描写に、成人なら執行猶予がつく初犯でも少年は教育目的で実刑がくだりやすいといった反論がない。これでは少年厳罰化を求める社会秩序へ同調するだけで、逆に実際より罰を甘く少年へ考えさせかねない。
被害者遺族の誰もが復讐心をかかえていることを前提にした描写もいただけない。さすがに復讐心を緩和することが互助会の目的で、暴走して同調したのが今回の犯人という構図にしているが、そもそも遺族が復讐心をもっているとはかぎらないし、犯人のくわしい情報を知りたい遺族ばかりではない。逆に復讐心がないことを冷酷さと自身で思いこんだり周囲が非難して気に病んでしまう問題もある。
複数犯が協力した連続殺人事件を描くなら、復讐以外の意図をもって互助会に入りこんで遺族を利用した黒幕などを設定しないと、社会への視野が広がらない。あるいは少年犯罪者のひとりが冤罪だった真相くらいは用意してほしい。
フリージャーナリストが杉下に究極の選択をせまるクライマックスも感心しない。一応、冒頭の杉下の過去が反映された展開ではあるが。リンチの予感を見逃して現場を優先し、リンチ現場の火災からリンチ犯を先に救って、後回しにされたフリージャーナリストの息子は焼死したと回想された。しかし『SAW』や『ダークナイト』の十年以上後に、巧妙さも意外性も落ちる選択を描かれても鼻白むだけだ。
サブタイトルがペンネームのアナグラムなことも、「オマエハツミニ」や「ツミハオマエニ」といった可能性が考慮されないことに違和感。もっと一意に決まるアナグラムにしてほしい。


連続ドラマとしても単純に出来が悪い。
途中で伊丹と芹沢が謹慎する展開からして、今期第8話*2とシチュエーションが同じ。ふたりが失敗を反省できなかったのかと疑問に思ってしまうし、同じ失敗をしたなら上層部もそれを考慮した重い対応をするはずで、物語の連続性が消えてしまう。
杉下が優先順位を間違えた過去を2008年に設定したのも良くない。現実には劇場版1作目が公開された年で、現在でもファンが懐かしむ亀山相棒時代の黄金期なのに、杉下が単独行動している描写に違和感しかない。

*1:作品に初参加した今期第6話は良かったのだが。 hokke-ookami.hatenablog.com

*2:hokke-ookami.hatenablog.com