法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『緯度0大作戦』

 南太平洋で深海調査中に、海底火山により潜水艇が行方不明になった。潜水艇に乗っていた3人は、謎の潜水艦に救助され、超技術に守られた海底都市につれていかれる。そこは「緯度0」と呼ばれ、東西対立から逃げた学者をうけいれる理想郷だった……



 1969年公開の日米合作映画。庵野秀明が『ふしぎの海のナディア』の監督時に潜水艦デザインや基地描写でオマージュしたと知っていたが、敵味方の因縁も連想されるところがある。

 撮影途中の米国側製作会社の倒産で版権問題が生まれてVHSやLDでは発売されず、一時期まで幻の作品となっていた。
 しかし解決して2006年にDVD化されてからは何度も映像ソフト化されて、今では逆に見やすい作品になっている。


 特撮映画としては充実。海底爆発の手法やマット画の多用は1963年の『海底軍艦*1を思わせるが、使いまわさず精度もあがっていて見ごたえある。海原を進む艦船ミニチュアやスモークをたいた海中表現も、近年までつかわれた手法で現在も問題を感じない。
 潜水艦戦は敵味方の知恵比べが楽しい。もちろんSF的な科学技術も戦闘にもちいていて、特に光を屈折させて位置を誤認させる方法は1960年前後に連載された藤子不二雄の漫画『海の王子』を思い出させるが、影響を受けているのだろうか。
 また、敵の島に乗りこむ場面などでスタジオセットを多用しているが、広々として書き割りやマット画の背景が目立たず、シネマスコープにふさわしい大作感がある。残念ながら合成怪獣だけは時代性を考慮しても着ぐるみ丸出しで質感も良くなくて感心できなかったが。


 物語の原型となったラジオドラマは『海底軍艦』と同じく戦前の作品らしい。しかし映画は冷戦がきびしい時代に科学者が逃避して自由な研究をおこなう理想郷として「緯度0」を位置づけ、制作された時代をうつしている。
「緯度0」は住民すべての所有物であり政治はおこなわれず、海水からとりだした安価な金で衣服がつくられ、ダイヤモンドも研磨材くらいにしかつかわれない。まるでマルクスが夢見た共産主義社会のよう。
 夢か現か判然としないオチも、普通に評価するならひどいといわざるをえないが、「緯度0」自体の夢物語めいた雰囲気にはあっている気がしなくもなかった。