法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『アルスの巨獣』

 帝国から実験体の少女クウミが逃げ出し、ジイロという戦士と出会う。「カンナギ」「ナギモリ」と呼ばれる特殊な能力をクウミとジイロももつことがわかり、ふたりは融合するように変身し、帝国の追跡者や巨獣と戦う旅がはじまるが……


 オグロアキラ監督による1クールTVアニメ。シリーズ構成と全話脚本は海法紀光、キャラクターデザイン原案は大槍葦人。2023年1月から放映された。

 20年前の深夜アニメや30年前のOVAで見かけたような、オリジナリティの高いファンタジーを完全オリジナルでつくろうとする意欲だけは感じられる企画アニメ。設定が多すぎて消化しづらいのか、話が進むと意外と雰囲気は平凡となり、いささか無理やり大団円をむかえつつ、後味を悪くするようなクリフハンガーで終わるところも当時を思わせる。
 その種類のアニメは映像だけは良くて印象には残るか、作画がダメダメで印象には残りがちなところ、この作品は特に良くも悪くもない。製作に中国資本が入って、旭プロダクションが元請けだが、予算をつかった大作という雰囲気ではない。耽美的なキャラクターデザイナーとシャープな絵柄で知られたアニメーター出身監督*1がコンビを組みながら、あまり特長が出ていない。アクションの殺陣はよく動くが、現代の水準からするとリアルすぎる遅さで、もっとファンタジーらしいスピード感を出しても良かった気がする。
 主人公たちが変身する「カンナギ」「ナギモリ」の能力も、子供と大人が融合して変身する場面で大人の肉体が十字状に割れる描写は目を引いたが、実際の変身形態は髪が逆立って光るくらいで特色がない。変身形態でも肉体に傷が入っているくらいのほうが個性的になったのではないだろうか。メインモンスターの巨獣も、抽象的で独特なデザインを目指そうとしていることは感じられたが、話が進むにつれてデザインも平凡化していった。
 話の展開で少し良かったのは、カプセルで産まれた実験体の少女が、そのカプセルで繁殖する人種と出会ったことで、一種の同胞意識をもてて孤独がいやされた場面くらい。細かいところでは、同性愛者と間違われるギャグを、同性愛を蔑視しないよう慎重な表現でおこなっていたところは悪くなかった。

*1:勇者指令ダグオン』のキャラクターデザインなどをつとめて女性人気をあつめ、その後はスクウェア・エニックスの社員となったが、近年はTVアニメ『なむあみだ仏っ!-蓮台 UTENA』の監督などでアニメ業界に復帰した。