法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

「ポリコレ棍棒」というワードの意味がよくわからなかったが、どうやら棍棒とは要望のことだったらしい

はてなブックマークを200以上も集めながら、この匿名記事の前提にほとんど疑問が出されていないのが不思議でならない。紹介されている話題は、ちっとも「極端」ではないはずだ。
ポリコレ棍棒勢の貧しさについて

http://bylines.news.yahoo.co.jp/saruwatariyuki/20160525-00058032/

まあ、要するにキャップがホモだって設定に変更してくれって話だ。もう、本当にうんざりしたんだが、これがトランプのいう「過剰なポリコレ」のひとつだ。

世の中には同性愛者がいる→わかる。同性愛者は一定の割合で存在する→わかる。同胞の一員である同性愛者の権利を守るべきだ→わかる。

フィクションの登場人物にも同性愛者がいるべきだ→そうだろうね。世界の反映としてフィクションの人物も一定の割合をホモにしてくれ→なにいってんだ? キャップをホモにしてくれ→意味わからねえ。

「キャップがホモだなんてとんでもない!」っていったら「お前は差別主義者だな死ね!」って炎上する。そういうのがポリコレの現場だ。

ただ、そういうのが欲しけりゃ、自分で作れよ。なんで「他の人が作って、もう走ってるものを、自分たちの権利のひとつとして要求する」んだよ。

しかしアメコミヒーローは時代にあわせて装いを変えてきたものだし、性別まで異なる同系統のヒーローが一堂にかいする作品まである。
テレビ東京・あにてれ アルティメット・スパイダーマン VS シニスター・シックス
もちろん日本にしてもフィクションの人物や展開についてファンからさまざまな要望が出されるものだ。ただ意見を公表するどころか、署名活動をして公式につたえるファンもいる。
ネウロアニメを改善したい!!!脚本改善署名運動
公式側も、制作後にアンケートをつのったり、制作前に市場をリサーチしたりする。そうして知ったファンの要望について、数の多さに応じて作者がサービスするのも、興味深いアイデアと感じて作者がとりいれるのも、なんら強制とはいえまい*1
どこにも法規制のような強制力はないし、『ミザリー』のように作者がファンに拉致監禁されるわけでもない*2


紹介された個人記事も以前に読んだが、ただツイッターハッシュタグで自由に意見が表明されているだけで、反論や疑問に対して差別主義という評価がなされているようにはうかがえない。
個人記事のむすびも下記のとおりで、議論を契機とした次世代のキャラクターへ期待が重視されており、キャラクター設定の変更を絶対視するものではない。

多数の熱烈なコミックファンがいる以上、そんな重要な部分を変えるのは、そう簡単ではないはずだ。とは言え、今の時代の人たちが何を望んでいるのかがわかったのだから、新しいキャラクターが出てくる新しい映画で、それをやってみせることはできる。次の映画でエルサにガールフレンドができなくても、またキャプテン・アメリカとバッキーが永遠に友達のままでも、別の映画で愛すべきレズビアンやゲイのキャラクターが生まれることにつながるならば、この運動は、何かをもたらしたということなのだ。

もちろん、別のファンが反論するのも、作者が応じないのも、要望に反発した展開をするのも、それ自体が批判されることではない。
もちろん、どのキャラクターとどのキャラクターが愛しあってほしい、そんなファンの要望を表明することもまた、表現の自由のはずだ。


ただし、ファンの要望や作者の反応が差別を動機にするものと明確であれば、差別主義者と評価されることはあるだろう。
さまざまな作品への要望があるなかで、現実の反映要求が性的指向の場合だけ「なにいってんだ?」と理解を拒否したり、同性愛者にしてほしいという要望に対してだけ「ホモだなんてとんでもない!」と反応をするならば、それは偏見が疑われるところだ。
せめて、ポリティカルコレクトネスのような話題に限定せず、あらゆるファンの要望を否定しなければ一貫性はない。たとえば、アニメのとがった表現を「作画崩壊」と騒いで修正版しか映像ソフトに収録させないような動きに対して、この匿名記事は反発してくれるだろうか*3

「売豚は、作画を殺します。」
「なぜ殺すのだ。」
「悪意を抱いている、というのですが、誰もそんな、悪意を持っては居りませぬ。」
「たくさんの作画を殺したのか。」
「はい、はじめはうつのみや作画*4を。それから、ベルカ式*5を。それから、オサムワールド*6を。それから、少し頭冷やそうか*7。それから、とらドラ版権*8を。それから、にほちも*9を。」
 聞いて、作豚は激怒した。「呆れた売豚だ。生かして置けぬ。」
太宰治 走れメロス

*1:希望にこたえるつもりでファンが勝手につくった設定を反映させたところ、それがキャラクターを落とす好悪わかれる設定だったため、むしろファンから悲しまれるようなこともある。アニメ版足柄の扱いに対するTLの反応 - Togetter

*2:ただ要望だけでも『ミザリー』のような作品を書きたくなるほどの心情を作者が持つことはある、とはいえる。

*3:改変ネタはあまり「萌え」がわからぬ動物として、少し源流の記憶をたどってみる - 法華狼の日記の使いまわしだが、萌えではなくファンの要望の多寡がテーマなので、激怒する対象を「売豚」へ変更した。なお、「とらドラ版権」だけは映像発表前の動きであり、映像ソフトにおける修正とは関係ない。

*4:創聖のアクエリオン

*5:アニメーターのわずかな個性も許さないアニメファンに絶望した! - ARTIFACT@ハテナ系

*6:グレン団活動報告「ドリル銀河に男の魂ッ!」: 第四話「顔が多けりゃ偉いのか?」

*7:J& blog http://jahy.info/: 作画崩壊って単純には表現できない感情を何とか表現しようとした果てでもあるよね

*8:lunaticprophet.org - このウェブサイトは販売用です! -  リソースおよび情報

*9:『鉄腕バーディーDECODE:02』第7話 WE WILL MEET AGAIN - 法華狼の日記