死後硬直しながら動く死体、キョンシー。とある道士の弟子が、棺のならぶ部屋の管理を命じられていたところ、突如としてキョンシーに襲われそうになる。その棺のなかにいたキョンシーは変装した兄弟弟子の悪戯だったが、やがて道士と弟子たちは本物のキョンシーと対峙することに……
サモ・ハン・キンポー製作による、1985年の香港映画。大ヒットしたホラーコメディで、台湾の『幽幻道士』シリーズのような人気フォロワー作品を生みだし、日本のサブカルチャーにも影響をあたえた。
WEB漫画メディア「少年ジャンプ+」で『キョンシーX』が連載をはじめた2023年だからこそ、キョンシーブームの発端をたしかめるつもりで初視聴した。
全体として、良くも悪くも香港映画らしい乱暴なつくり。
まず、シリーズ1作目なのに説明もなく複数のキョンシーが管理されている冒頭がよくわからない。その管理をおこなっている道士とキョンシーたちはすぐに退場して終盤になるまで再登場しない。
オカルト的な由来があるとはいえ死体が物理的に動きだすクリーチャー型のホラーなのに、幻覚で男性をまどわす女幽霊のエピソードが挿入されたところも首をかしげた。エピソード自体は悪くない古典的な悲恋ホラーなのだが、恐怖の方向性が違いすぎて印象がとっちらかっている。
しかし、雑多な要素をとりいれて状況が変わりつづけるおかげで観客を飽きさせない良さはある。売春婦への偏見など気になる描写もあるが、あくまで弟子の愚かしさとして描かれ、引きずることもないので目をつぶれる。他にも弟子の過ちで無駄に危機を長引かせる局面が複数あるが、基本的に師匠の道士が対処できる範囲にとどめているので、不快感に反転するほどのストレスはたまらない。
特殊メイクはパーティーグッズのゴムマスクくらいの技術で、損壊する人体も明らかに人形。ただ、お化け屋敷のような稚拙さゆえの気持ち悪さ、居心地の悪さがあり、独特の恐怖描写として成立している。
香港映画らしい曲芸じみたアクションは、現在に視聴しても見世物として楽しい。重みのないリアリティに欠けた動きだからこそテンポよく状況が動き、ホラーコメディらしさを助けている。全体が舞台劇のようなリアリティなので、ワイヤーが見えてしまっているカットも気にならない。
しかし後半に登場するクマだけは着ぐるみが安っぽすぎ、中の人の体格や動きも丸出しでゴリラと区別できず、いくら使い捨てのコメディ描写でも限度があると思った……