法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『犬鳴村』

都市伝説のトンネルで撮影する男女がいた。公衆電話にみちびかれるようにトンネルをとおり、廃墟の村についたふたりは恐怖の夜をすごす。一方、臨床心理士の女性は担当している子供とともに、存在しないはずの女性の姿を感じとっていた……


都市伝説をアレンジしたホラーとして、2020年に公開された日本映画。清水崇監督の「恐怖の村」シリーズ1作目で、東映作品としては大ヒットした。

代表作にして出世作の『呪怨』がシリーズを重ねて当初のインパクトを失い、監督の手からもはなれてひさしいが、今作でホラー映画監督として商業的には復活した……のだが、まだかつての魅力をとりもどしたとはいいがたい。
正直な感想をいうなら、映画『残穢 住んではいけない部屋』のジェネリック版といったところ。その結末の蛇足パートが延々とつづくような作品といえば良いか。良くないよ。


とにかく恐怖を強調して堂々と出す描写と、抑制して恐怖を暗示する描写、そして単純に稚拙な描写がランダムに配置されていて、どのような気持ちで視聴したらいいのかわからない。
冒頭の個人撮影は低予算モキュメンタリーとしては水準以上の出来で、廃村の美術セットもすばらしいのだが、カメラが客観視点にきりかわって怪異が実体をもって攻撃をはじめてからは凡庸。
本編に入ると、まず病院で出没する女性の恐怖演出はハイレベルだが、その後に残像のような撮影効果であらわれる大量の怨霊はまったく怖くない。人間の奇行や無謀で恐怖をつくるところは、行動が共感しづらく物語の都合を感じてしまう。
墓地にたたずむ謎の男は雰囲気があるかと思いきや、普通の人間のように会話をはじめて、ホラー映画とは異なるゴースト映画にジャンルが変わり、しかし展開そのものはホラー映画としてつづいていく。
死体は一般向けホラーとしては醜悪でリアルで、スプラッター映画のよう。そこから結末でベタなホラーらしいオチになるので温度差がはげしい。


最終的にモンスターホラー的な真相が明かされるのだが、もともと怪異を直接的物理的に描写するのが監督の作風とはいえ、いくらなんでもモンスターの造形に作り物感が出すぎていた。描写が長すぎて登場人物が足を止めることも不自然。
一応、怨恨をとおして近代史を批判する社会派要素はホラーの定番として手がたい。その設定が無差別な復讐の惨劇から主人公が逃れる理由ともむすびついているところは良かった。しかしそこから出力される映像が安っぽいのだ。
せめて人間はモンスター化せずに動きだけで怪異を表現して、記録映画の場面を結末にもってきて雰囲気をつくれば、もう少し全体の雰囲気が良くなったのではないだろうか。怪異を直接的物理的に描写するのが監督の作風ではあるが。