法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『V/H/Sシンドローム』

とある民家に少年たちが押し入る。そこにはモニターとVHSテープの前に座る男の死体があった。若者たちが自身を撮影しながら、VHSテープに録画された映像を見ていくと……


2012年の米国映画。POV内POVで各エピソードを描くという特異なコンセプトのオムニバスホラーとなっている。

カメラの主観映像を重視したポイントオブビュー、いわゆるPOVという手法のコンセプトをつきつめた実験作。
コンセプトのしばりがきついため完成度が低く感じるエピソードもあるが、短いおかげで見つづけられる。


アダム・ウィンガード監督*1の『TAPE56』は、外枠にあたるエピソード。変な話に引っかかって恐怖体験する無軌道な若者たちを描く。
過去の若者たちの愉快犯的な犯罪の断片的な映像はリアリティがあっていいが、民家に押し入ってからは平凡なPOVホラー。
ついついVHSテープを再生してしまう背後で死体が動き出すあたり、良くも悪くも予定調和。あくまでオムニバスをそう説明するための枠組みだ。


デヴィッド・ブルックナー監督の『AMATEUR NIGHT』は、女性グループをナンパした男性グループが恐怖を味わう。初心な青年の眼鏡にカメラがしこまれている設定。
どれほど拒絶されても初心な青年を愛そうとする、美人だが眼球のつきでた女優の演技が印象的。怪物が自然にカメラ目線になり、近寄ってくるところにPOVの良さがある。
ほとんど一室のグループ交際で物語が終始するが、怪物化するVFX描写も短いながらしっかりしており、POVホラーにありがちな低予算感がない。
しかし異形の女性に愛される初心な青年という構図が、異種婚姻譚の典型すぎて、つい見ていて笑ってしまった。


タイ・ウェスト監督*2の『SECOND HONEYMOON』は、男女が旅行を記録するための映像に、謎の女の影がちらつく。
男女が泊っている部屋に謎の女が入りこんで撮影したりするが、超自然要素はない。スプラッタ―描写を入れつつも、シンプルな答えで密室の謎が解かれる。
物語の要素が少ないので真相を予想することは難しくないのだが、シンプルにまとまったスリラーとして悪くない。


グレン・マクエイド監督*3の『TUESDAY THE 17TH』は、森林に遊びに来た男女4人が何かに襲われる。
その場所では謎の殺人がくりかえされていて、それを知る男女の1人があえて場所を選んだという真相が語られるが、いまいち物語がまとまらない。過去の情報があまり役に立たず、結局のところ事件は解決しないし、襲ってくる存在の正体もよくわからない。
ただ、すべてが劇中映像で構成されるPOVにおいて、最重要な襲撃者をあえてノイズのように映した演出は、コンセプトをひっくりかえす変化球として楽しかった。


ジョー・スワンバーグ監督*4の『THE SICK THING THAT HAPPENED TO EMILY WHEN SHE WAS YOUNGER』は、映像チャットで相談する男女の真実を描く。
すでにPOVというコンセプトにしばられながら、ほぼ全編がパソコンモニター上で展開されるというコンセプトを重ねて、2018年の『search/サーチ』の先駆というべき作品となった。
女性にできた腫瘍の正体や、その周囲の子供らしき姿などは、真相の伏線も説明も足りない。かといって斬新に感じるほど正体不明でもなく、平凡な都市伝説的な情景にとどまる。
しかし映像チャットという形式はうまく活用されている。持って移動できるパソコンならではの情景の変化や、男女の距離をひっくりかえすサプライズなど、つめこまれたアイデアの多さに感心した。


ラジオ・サイレンス監督*5の『10/31/98』は、ハロウィンでノリノリになって他人の住居に入りこんだ若者たちが、本当の儀式に出会ってしまう。
外枠の若者たちほど悪質ではないが、人間関係や状況設定といった構図がよく似ている。直前に外枠の物語が終わっため、オムニバス全体の真相が明かされるエピソードかと予想したが、ただの独立したオカルトホラー短編だった。
しかし悪魔の儀式を冗談と思って参加しようとして追いはらわれる気まずさや、本物と気づいて生贄の少女を助けにむかう熱い展開など、青春ホラーとして素直に楽しい作りではある。怪現象の始まった屋敷を逃げまどう局面のVFXも出し惜しみなく、ジャンル映画として密度が高い。

*1:POV手法を席巻させた1999年の映画を2016年にリメイクした『ブレア・ウィッチ』が代表作か。

*2:カルト教団の恐怖をフェイクドキュメンタリー形式で描いた『サクラメント 死の楽園』が代表作だろう。『サクラメント 死の楽園』 - 法華狼の日記

*3:『セール・オブ・ザ・デッド』というホラー映画を撮っている情報しか見つからなかった。

*4:未公開サスペンス映画『二つの真実、三つの嘘』の評判が良さそう。

*5:デヴィッド・ブルックナー監督とともにまたコンセプト重視のオムニバスホラー映画『サウスバウンド』を2015年に監督しているらしい。