法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『顔のない悪魔』

 米国とカナダの国境付近につくられた軍事基地では、レーダー実験のため原子炉をつかっていた。僻地にある基地だが周辺で住民が生活していて、放射能を不安視している。そして基地近くで人間が惨殺されはじめた……


 1958年の英国映画。米国の女性SF作家の短編にロマンスなどを足して74分にふくらませたB級怪奇SFホラー。日本では43分の短縮版のみ劇場公開されたことがあるという。

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 米国とカナダの軍隊が共同でつくった原子力基地と、それに対する田舎の住民の不信感が対立するなかで謎の殺人事件が発生。殺されていく人々の迫真の演技が楽しい。
 モノクロビスタサイズで展開される映像は『ウルトラQ』を思い出すが、透明な怪物の設定や誕生した経緯など、SFホラーとしての構造は2年前に公開されたカラー映画『禁断の惑星』そっくりだ。

 比べると舞台のひとつとなる構造物の異様さこそレーダー実験用の小さな原子力施設くらいにスケールが小さくなっているが、透明な怪物の痕跡をストップモーションで日常的な小物を動かして表現し、プリミティブな特撮の面白味があった。人間の大脳から脊髄までに触手を足したような怪物のデザインもインパクトたっぷり。
 増殖した怪物も予想外に多くて、終盤に窓の外の光景が一変する恐怖はなかなか印象的だ。ひとつの部屋に籠城して拳銃で対抗する場面は10年後の『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』の先取りか。それがストップモーション独特の違和感ある動きで画面せましと這いまわり、時には跳躍する。クライマックスの出し惜しみのなさでクリーチャーホラーとしては心底楽しめた。


 ……ただ、見ていてたぶん日本人は誰もがツッコミを入れると思うが、さすがに怪物のエネルギー源をなくすために原子炉を建物まで爆破してハッピーエンドになったのはどうかと思った。
 一応、原子炉を制御できなくなったからという説明はあるものの、口頭のやりとりなので絵的な説得力がないし、爆破しなければメルトダウンなどのさらなる大事故になる状態でもなさそうだ。この映画の数少ないミニチュア特撮の見せ場ではあるのだが、実景から一瞬で切りかえる手法なので面白味もない。