法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『マックィーンの絶対の危機(ピンチ)』

 若い男女がキスをしていた時、流れ星が落ちていった。家の前にできた小さなクレーターに老人が入ると、小さな岩塊のなかに入っていた粘着質の物体がまとわりついてくる。その老人を助けようと男女が診療所へ運ぶが……


 1958年の米国映画。ハリウッド外でつくられた低予算モンスターホラーだが、スティーブ・マックィーンの初主演作としてカルト的な人気があり、『ブロブ 宇宙からの不明物体』というリメイク作品もある。

 製作したジャック・H・ハリスのオーディオコメンタリーによると、当時に売れていた若者反抗映画と、そこそこ売れていたSF映画をドッキングさせた企画らしい。もともと規模の小さい作品の配給をうけおっていたが、そこで他の企画をバカにしてしまい、それならば自分が作れといわれて脚本もないままでっちあげたとか。
 当時は恋人たちのラブシーンからはじまるSF映画は珍しいとも自認している。しかし同時代の日本の特撮映画と比べると新しいとは思えない。モノクロ西部劇が流行っていた時代のカラー作品だが、すでに日本でも『ラドン』や『地球防衛軍』が成功をおさめていた。


 当時の映画としてもテンポが緩慢としている。特に主人公が悪友にカーレースをしかけられる場面がダルくて、地上波放送で削除された*1のも当然と思えるほどだった。一応、警官と若者の関係をあらわすため必要なシークエンスではあるのだが。ただ、テンポのゆるい主題歌は不思議と耳に残る。当時は人気になって映画のヒットにも貢献したという。
 怪物ブロブの弱点として、途中のスーパーマーケットの冷蔵室には入ってこないという伏線は悪くない。しかし全体的にブロブの動きが遅すぎて、脅威を知って対抗している医者がなすすべもない展開に説得力がない。普通に小走りで逃げられそうに見える。けっこうブロブは姿をさらしているのに、それを目撃して周囲につたえる主人公の説明が下手で説得力がなく、ひとり中途半端に信用する警官の行動にも納得しづらい。エンドマークにハテナマークがつくラストも、このようなモンスター映画の定番としか思えない。
 監督オーディオコメンタリーを聞くと、テンポがゆるいことは認めていて、その原因は低予算のためフィルムを多くつかえず、フォローするための映像素材がなくて編集が難しかったためらしい。


 全体的に特撮も安っぽく、目につくミニチュア特撮は映画館の観客席へブロブが侵入するカットと、映画館からブロブが出てくるカットくらい。他のカットは写真か絵の上にブロブを乗せたようなカットや、マットペイントをアニメーションさせたようなカットばかり。ただし小さなレストランに主人公たちが閉じこめられ、地下室に逃げて密室劇化するクライマックスは予算と物語のスケールが調和していて悪くない。
 また、監督オーディオコメンタリーによると実はミニチュア特撮は巨大化ブロブより本編で多用しているらしい。たとえば隕石が落ちてきたクレーターと小屋を同時にうつす全景は1/2から1/3のビガチュアだという。ブロブがうごめく特撮も小さなセットを逆さにして重力を動きに利用したという。いわれてみると、動くブロブと人間はカットを割って、切り返しで対峙する場面が多い。

*1:DVDに収録されている吹替が1時間半枠で放映された時のものなので、字幕になる会話は放映されなかったことがわかる。