法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『遊星よりの物体X』

雪に閉ざされた北極で、巨大な飛行物体の墜落痕が発見され、氷に閉ざされた物体が基地に回収される。しばらくして基地周辺に怪人が出没するように……


80分のモノクロスタンダードで外宇宙からの敵を描く、1951年の米国映画。原作を同じくしつつ内容を大きくアレンジした『遊星からの物体X』が有名。

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実のところ以前に書いた一行感想で終わる内容だが、思うところがあって少しくわしく改めて書いておく。
ホラー映画の簡素な感想99 - 法華狼の日記

案外と古典的ホラーとして成り立っているが、最後の政治性丸出しメッセージはとってつけた感がひどい。

『宇宙空母ギャラクティカ サイロン・アタック』等のクリスチャン・ネイビーが監督としてクレジットされているが、実質的には製作のハワード・ホークスが監督したという。
特撮は時代性を考慮しても少ない。雪に閉ざされた基地セットの大きさや、雪に埋もれて尾翼だけつきだした宇宙船など、良い絵はけっこう多いのだが。
宇宙人の特殊メイクや描写も、当時の怪物映画の延長にとどまる。吸血植物が栽培されている描写などはおもしろいが、それが新たな人型へ育っていく過程などは見せない。ただ特色として、姿を見せずに恐怖をもりあげてから大写しにするショック演出を使わず、前ぶれなく素っ気なくヌッと現れる。それが黒沢清映画のような怖さを感じさせるといえなくもない。


物語で面食らうのは、過剰なまでの人類の好戦性だ。
宇宙人とのコンタクトを求める研究者も出てきて、それが失敗した結果として敵対すると結論づける構成はいい。しかしまず宇宙人が目ざめて動いただけで、監視していた男が驚いて撃つという描写が最初にある。これでは以降に宇宙人が暴れる理由が正当防衛になりかねない。
宇宙人があまり強く見えないのも、人類側の恐怖が過剰なだけという印象を強める。基地で飼われている犬たちに襲われてほうほうのていで逃げ出すし、そこで片腕がもぎとられる。一応、犬の死体が転がりだす場面などは現在でも恐怖演出として通用するだろうが、人間の惨殺は大写ししないので、宇宙人ばかりひどい目にあっている印象が生まれてしまう……