法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『遊星からの物体X』

南極基地で、逃げる犬を執拗に攻撃するヘリコプターがあった。そのヘリコプターは墜落し、犬は米国の基地に保護されるが、やがて惨劇が始まる……


ジョン・カーペンター監督による1982年の米国映画。地球生物に擬態した「物体」が異形化していく描写が、『寄生獣』などの多くの作品に影響を与えた。

約十年ほど前、下記のような一行感想を書いたが、最近に鑑賞しなおして考えを改めた。
ホラー映画の簡素な感想99 - 法華狼の日記

確かに終盤のクリーチャー大活躍は良いが、そこにいたる展開がけっこうダレダレ。

導入からして、説明もなく人間が犬を執拗に追いかける描写がテンポ良くて謎めいているし、雪に閉ざされた基地には静謐な雰囲気がある。
安っぽい小道具を無造作に使うカーペンター監督には珍しく、舞台を限定したことで画面全体をコントロールできていて、余剰のない画面に高級感がある。基地のセットだけを徹底的に作りこみ、怪物はアニマトロニクス表現を徹底して、HDリマスターした映像を高画質で見ても粗を感じさせない。
実際はコマ撮りアニメーションも使う予定だったが、ほとんどのカットが削除され未公開にされた。かつては残念に思っていたが、全体の統一感を守るためには正しい判断だったと今では感じる。
中盤に犬が正体を現すのも記憶より早いし、そこまでも危ない存在をそれと知らず無造作にあつかう描写がサスペンスフル。はっきり真相を知った状態で視聴してこそ恐怖がもりあがる。
こっそり「物体」が手作りしていた宇宙船の安っぽさだけはカーペンター監督らしいと感じたが、そこだけハリボテ感があからさまなことで、逆に人類とは異なる文明らしい異化効果が生まれている。