法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『UFO学園の秘密 The Laws of The Universe - Part0』

 人里からはなれた全寮制の進学校、ナスカ学園。課題としてUFO研究を選んだ少年少女5人の周囲にUFO関係の異変がくりかえされる。さらに学園が禁じている学習塾へ行った生徒たちが奇妙なふるまいをするようになり……


 今は亡き大川隆法の原案と製作総指揮でつくられた2015年のアニメ映画。監督は幸福の科学のアニメ作品を手がけてきた今掛勇で、総作画監督や共同キャラクターデザインも兼任。

 キャラクターデザインは古くて華がないが、予算のある宗教アニメらしく作画枚数は多めで安定している。遠景のモブは3DCGだが近景のモブは手描き作画で個性をもってアニメーションするし、制服のワッペンや格子模様のスカートも手描きで破綻なく動く。
 やや高めのカメラ位置で、群衆を奥まで見わたして破綻しないレイアウトも良かった。人間が密集している情景に学園らしさがある。月面や異星の3DCGも劇場アニメとして充分なクオリティ。


 さて、このアニメにかぎらず、クライマックスが棒立ちの口論で進行したり、ふわふわな説教で一方的に論破するアニメを見て宗教映画のようだと思うことがある。こちらは最初から宗教プロパガンダアニメなので逆にツッコミづらい。
 もちろんナスカ学園には幸福の科学関係のポスターがサブリミナルのようにはられているし、最後の打ち上げ花火からも幸福の科学学園がモデルなことは明らかだが、あまり全肯定はしていない。塾に行かせることも禁止するような全寮制の学校なので主人公たちも不満をもっているし、校長や生徒はかたくなに主人公たちのオカルト話を否定して嘲笑する。
 根拠なくオカルトを語って嘲笑されたところに本当にオカルトが発生して、とある理由でそれは存在しなかったことになるが、権威者にだけは理解してもらえるようになるカタルシスは、けっこう普遍的な娯楽といえる。学校をテロリストが襲撃して活躍する願望と似たようなものだ。
 このアニメは珍しく大川隆法が登場しないのも見やすさにつながっている。おそらく学園宣伝を優先しているので、それなりに学園ジュブナイルとして楽しめてしまう。プロパガンダ作品らしい説教や世界観の説明も、若い主人公たちが複雑な説明を拒否するので、恐れていたよりは長くない。
 物語の発端となったアブダクションによるチップ埋めこみは解決していないし、なぜナスカ学園が宇宙的な衝突の舞台になったのかもよくわからないが、タイトルに「Part0」とあるように思いっきり次回につづいて終わるのでやはりツッコミづらい。


 全体として、カルト宗教のプロパガンダ作品ということを忘れて視聴すれば、三十年前なら悪くないアニメ映画と感じられたかもしれない。このアニメのダメなところは一般的なアニメでも見かけることがある。
 たとえば自衛隊にはいって国をまもりたいと主人公が情熱的に語らったり、米ロ中の大国にそれぞれレプタリアンが入りこんでいたり、排外主義に満ちた世界観も悪い意味でカルトらしいナショナリズムは前面に出ている。しかしこれくらいの問題は普通の商業作品でも時々ある。
 ただしキャラクターデザインに通じる問題として、とにかくオカルトネタが古すぎる。今どき堂々とグレイ型宇宙人が出てきたかと思えば、人間に化けたレプティリアンが敵の宇宙人として設定されたりする。どちらもスピリチュアルやQアノンの世界観では現役だが、もはやフィクションではパロディなどでひとひねりしないと通用しない。
 カルト宗教の世界観は印象ほどに斬新でも珍奇でもなく、実際はフィクションの後追いでしかないことが多い。そのひとつの典型例のようなアニメ映画だった。