法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

上野千鶴子氏のいう「おひとりさま」は、社会から孤立するススメではなく、家族以外の選択肢も増やすことのススメ

上野氏が2年前に結婚しており、その相手となる男性が死去したことを文春が報じて話題になっていた。
“おひとりさまの教祖”上野千鶴子(74)が入籍していた | 週刊文春 電子版

 フェミニズムの旗手にして、おひとりさまの生き方についてベストセラーを著してきた上野。2年前、彼女は、ある男性を介護の末、看取る。「結婚という制度がイヤ」と公言してきた上野は、彼と密かに入籍していた。

この報道に対して、西村ひろゆき氏や飯山陽氏や唐沢俊一氏のような著名人もふくめて、上野氏が言行不一致という反応が少なくない。


おひとりさまの生き方について本を書いて「結婚という制度がイヤ」と公言してきた上野千鶴子さんが結婚してた。
嘘を書いて本にして情弱からお金を取ってたわけですね。いやはや。。。


「みんな平等に貧しくなろう」と言いながら、自らはタワマン、別荘、BMW生活を送っていたことで有名な上野千鶴子大先生は、「みんなおひとりさまになろう」と言いながら、自らは結婚もしていたらしい。ようは徹底してビジネス左翼だったってわけか。


上野氏が誰を愛そうと籍を入れようと本人の自由なのだが、彼女を信じて結婚しない人生を選択した人たちにどう釈明するか、だよな注目点は。


はてなブックマークでも疑問や反発が多く、「おひとりさま」という選択が、選択肢が多い富裕層ならではのものだという解釈も散見される。
[B! 上野千鶴子] “おひとりさまの教祖”上野千鶴子(74)が入籍していた | 週刊文春 電子版
たしかに関連する文章を読んでいると、結婚についての上野氏の視野のせまさは感じたし、この報道もその傍証になりそうだとは思った。
特に、「看取る」関係は友人でも充分という発言を読んだ時は、家族でなければ面会がむずかしい状況がありうることを理解しているのか疑問をおぼえた。
伴侶の最期にたちあいたい心情は、現状にあわせた妥協として同性婚の法制化を求める根拠として有名だ。2018年にはギャグアニメの一幕にもなった*1

しかし、だからこそ文春記事の無料範囲を読むだけでも、上野氏は「おひとりさま」の反例どころか体現としか思えなかった。


すでにはてなブックマークでも人気コメントになっているrna氏の他、いくつかの指摘が存在する。

id:rna 『おひとりさまの老後』は未読だけど帯には「結婚していようがいまいが、だれでも最後はひとり」って書いてるし別に矛盾はないんじゃない?彼氏いてラブラブって噂は10年以上前から聞いてた。

id:mezirushi 逆説的だけど、20も歳上の人をパートナーに選んだからこそ、(自分自身は)「おひとりさまの老後」であるとリアルに見えてたのかなと

id:natumikoko 最近の本の内容は知らんけど、20歳も上の男なら先に死ぬしおひとりさま老後というのも嘘ついてないな 入籍は相続に必要だったのかな/ 社会制度とは別に人を愛することは大事だと思うよ

id:suikax 結婚してても1人になる可能性を考えてない人ってこんな多いの。よほど想像力ないのか、現状に甘んじてぬるま湯なのか?人は死ぬんだよ。

上野氏の語る言葉とてらしあわせた実感としては、mezirushi氏のコメントが近いように思える。


まず、シリーズ最初となる2007年の『おひとりさまの老後』の時点で、「結婚していようがいまいが、だれでも最後はひとり」と説明文にあり、出版社ではなく上野氏自身の考えということも試し読みで確認できる*2

直後の2008年のインタビューにおいても、家族持ちの女性読者も多かったことは「想定外」としつつ、結婚して家族がいても「おひとりさま」になる現実を指摘している。
いつかはみんな『おひとりさま』。だから、安心できる介護システムが必要なんです::Back Number::Ms Wendy::分譲マンションと生活に関する情報 Wendy-Net

50代を過ぎたころから、離別や死別でシングルに戻る「シングル・アゲイン」の女性が増えてきます。子どもに老後を頼ろうにも、きょうだいの数が少ないから1人あたりの負担が重すぎる。子どもは老後の「保険」にならないんです。

つまり上野氏のいう「おひとりさま」とは、積極的に選ばずとも、いずれ誰もがなってしまうものなのだ。文春記事で報じられた現在のように。
すでに高齢者であった自身より老齢の男性と深い関係をもっていたのであれば、「おひとりさま」になることは上野氏にとって実感的な未来だったのだろう。


誰もが「おひとりさま」になるからこそ、インタビューの最後に上野氏は介護の重要性をうったえてもいた。

2000年に介護保険制度が導入され、他人さまのお世話になって当然という社会ができた。ああ良かった、私のためにできたと思いましたよ(笑)。それ以来、私の主要な研究テーマは介護。私の目線は利用者、介護される側です。

上野氏が「長寿社会」「手厚い介護」と表現しているところは、2008年当時でも富裕層の感覚だろうとは思える。
しかし当時の現状で充分と考えていたわけではなく、重視するからこそ労働者の環境改善もあわせた制度の充実をもとめていた。

介護労働者の報酬や労働条件も労働に見合うものにしていかないと。だって、しわよせは介護される当事者に来ますから。

安心して、ゆっくり死んでいけばいい。ただ、そのためのシステムづくりが必要なんです。

前後して、インタビュー時点での上野氏が結婚していないことは形に興味がなかったためであって、出産しなかったこともふくめて確信的な選択ではなかったと語っている*3

私は確信犯でシングルを選んだわけじゃないんです。恋愛や男性と一緒に暮らすことにためらいはない。でも、結婚という形には興味がなかった。子どもを産む選択肢もなかったわけじゃないけど、迷いながら気が付くとその時期を過ぎていた。人生なんて振り返ればそんなもんでしょ?

そして文春記事とも関連するだろう実体験にもふれている。上野氏の結婚への懐疑は、人間関係が不要だからではなく、人間関係が不足するという考えからきているのだ。

つまり、自分が自分らしくいられる相手を試行錯誤を繰り返しながら探索し、お互いに選び合った仲間を持つこと。家族にも言えない悩みを打ち明け、励まし、支え合う。そこには夫の職業も子どもの学校も地域のしがらみも関係ありません。それはまさに、フェミニズムが作ってきたネットワークそのものですね。

私自身のことを言えば、このところ仕事場がある八ヶ岳山麓で、定年退職者の移住者のコミュニティーに入れていただいています。

先述した「看取り」には友人で充分という主張も、「逆にいえば、友人のネットワークがなければ、安心しておひとりさまをやっていられない」と人間関係の重要性を主張している*4
もともと上野氏の結婚不要論は男性不要論ではない。さまざまな文章において、新たな男性との性愛もふくめた関係を謳歌するために、結婚という制度で束縛される必要がないと主張してきた。
上野千鶴子「人はなぜ不倫をしないのか。私には信じられない」 性的自由を手放すなんて恐ろしい | PRESIDENT Online(プレジデントオンライン)

私は決して男嫌いではありません。男性は愛すべき生きものだと思っているし、尊敬できる男性もいる。年齢的に性欲は順調に落ちてきているけど、セックスも大好きですよ。

逆に聞きたいですよ。人はなぜ不倫をしないんでしょうか、と(笑)。何度も言うように、結婚したら最後、自分の性的身体の自由を手放さなければいけないなんて恐ろしいことを、私はする気になれません。

結婚しないほうが多くの人間関係を構築できる……そのような考えができるのは、新たな人間関係を構築しやすい裕福な立場ゆえという可能性は考えられる。
しかし貧困などで独身や離婚という選択肢が失われるのであれば、それは何よりも社会の問題だろうし、その理由で上野氏が結婚を推奨するべきではないだろう。
そして広い人間関係を構築できない困難があるならば、結婚という人間関係を構築しつづけることにも困難がある。


少し前の政府がつごうよく使用した言葉でいえば、上野氏は誰もが「自助」におちいる最期を実感して、夫婦という小さな「共助」も限界と指摘して、家族より広い「共助」と充実した「公助」を求めていた。
細部には疑問があるものの、大枠では社会が直面している状況を正確にとらえた主張だと思えるし、上野氏が数年間の結婚で死別した現在が自己否定になるとは思えない。

*1:厳密には違う年だったが2019年の話数単位ベストテンに私選したくらい印象深かった。 hokke-ookami.hatenablog.com

*2:Kindle Unlimitedにも入っているので、抵抗がなければ無料体験か格安で読むことができるだろう。

*3:ただし『おひとりさまの老後』では、家族をつくらなかったことはダブルクォーテーションでくくって「“確信犯”」とも表現している。ノンブル240頁。

*4:『おひとりさまの老後』ノンブル242頁。