反能力主義をうったえるマイケル・サンデル『実力も運のうち 能力主義は正義か?』の書評記事がはてなブックマークを集めていた。
huyukiitoichi.hatenadiary.jp
本題にいろいろ思うところはあるが*1書籍そのものは未読なのでさておいて、はてなスターを集めているid:grdgs氏の指摘が目に止まった。
[B! アメリカ] 社会に分断をもたらした「自分自身の努力と勤勉さ」で成功したという考え──『実力も運のうち 能力主義は正義か?』 - 基本読書
「成功は自分の努力のおかげであると信じる傲慢さとそれがもたらす分断、不平等な仕組みのまま実施される能力主義」傲慢は上野千鶴子が指摘してたね。そしてこの仕組を日本で助長しているのは右派に多いネオリベ
おそらく2019年に話題となった東京大学入学式の祝辞のことだろう。たしかに私もサンデル氏の反能力主義を知った時、日本の似た意見として連想した。
www.u-tokyo.ac.jp
つづいてid:metaruna氏の反論らしきコメントも目に止まった。これもそこそこはてなスターを集めているが*2、何か思い違いしているとしか思えない。
上野千鶴子こそが恵まれた環境(都内超富裕層出身)で生まれ育った立場から、恵まれない地方公立出身の男子東大生に対して男子であることだけで恵まれていると自覚せよと入学式で説教する傲慢さ醜悪さの象徴なんだが
上野氏の父親は開業医だそうで、一般的には裕福な家庭と推定できるが、「超富裕層」という表現があてはまるかは微妙に思える。
しかも実際は富山県出身で、進学校ではあるものの地方公立中学にかよっていた。高校も移住先の石川県の公立高校だったという。
新中学生へのメッセージ 上野 千鶴子さん | 朝日小学生新聞 特別増刊号 WILLナビNext(首都圏版)
父親が金沢市に引っ越したため、高校の状況がまったくわかりません。しかし、ここでも父親が私の受験する高校を決めました。トップ進学校の金沢泉丘高校ではなく、旧高等女学校を母体とする金沢二水高校です。
東京大学の合格者は関東出身が過半数だ。合格者と入学者は同一ではないが、上野氏が祝辞をおくった相手が地方出身ばかりだったとは考えづらい。
todai.kawai-juku.ac.jp
一方でサンデル氏は、米国有数の大都市ミネアポリス出身だ。恵まれた立場から反能力主義をとなえてはいけないのならば、上野氏よりサンデル氏が問題になるはずだ。
むしろ上野氏が恵まれない立場だったからこそ、努力した成功者としてネオリベな価値観を内面化している危険がある。事実エッセイ的な文章などで感じたことはある。
しかし、そのようなネオリベな価値観をも射程にいれたからこそ、祝辞は意義深いものだったのだ。
*1:2020年のTVアニメ話数単位ベストテンで、選出基準のひとつにしたばかり。hokke-ookami.hatenablog.com
*2:つけているのはid:ishinoayumu氏、id:gidosupario氏、id:shibuya12氏、id:nreleariv氏、id:Dursan氏、id:repon氏、id:kawango2525氏。