法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

書籍配布プロジェクトに公金がつかわれていると根拠なく断言されただけで、かつてファクトチェックをおこなっていた林智裕氏が頭から信じてしまっている

発端となる「こふじ@MPUuURHBCAGVNti」氏のツイートから、暇空茜こと暇な空白氏*1の断言をへて、ライターの林智裕氏がColabo批判をおこなっている。


難民高校生1307冊シュバってるのも笑うんよ🥸


ふふっ いいこと教えてあげますね

「難民高校生配ってるお金も公金」


1307冊も公金で買って良いものなの…?


というか、colaboの件は詳しく知らないから沈黙してたけど、ただ1点。

「公金で同じ本を1307冊も買って配る」というのは、一方で公益のためと思い死に物狂いで書いた自著の販売促進を必死でしてきた人間からすると、「ありえないチート」にしか映らなくてダメだわ。

ありえない。酷すぎ。

なぜ根拠をしめさないツイートひとつから「ありえない。酷すぎ」とまで断言できるのか。
最初にはられている活動実績の画像に、公金がつかわれていることを示す記載はいっさいない。Colaboは公金だけで活動している団体ではなく、主に寄付など自主財源で活動している。
権力者への批判は知らないから参加しなかったと説明しつつ、反権力への批判には確認をおこたって参加してしまう林氏の二重基準は、2020年から成長していない。
かつて「Fact Check 福島」をたちあげた林智裕氏の、政治への抗議をめぐるtwitterにおける恣意性 - 法華狼の日記


はてなブックマークを見ると、最初は「詳しく知らない」と自認する林氏のツイートを疑わないコメントばかりならんでいる。
[B! Colabo] HAYASHI Tomohiro on Twitter: "というか、colaboの件は詳しく知らないから沈黙してたけど、ただ1点。 「公金で同じ本を1307冊も買って配る」というのは、一方で公益のためと思い死に物狂いで書いた自著の販売促進を必死でしてきた人間からすると、「ありえないチー… https://t.co/uM28ByWj7Y"

id:hetarechiraura アグレッシブな税金洗浄ぽっぽないないスキームやんけ~😇

id:Yagokoro 税金で自分の本買うってスゲえよな……。

id:frothmouth 税金で買った本

id:twwgot 大学の講義で自著をテキストに指定する教授はいたけど公金を使ったケースに比べるとかわいいもんだな

id:eachtime 仁藤夢乃さんが自著を税金で1,307冊購入。colabo、これだけでも完全にアウトじゃないですか。

根拠なき断言を疑惑の根拠としてあつかうコメントを除外しても*2、ここまで税金で購入したことを否定しないコメントがならんでいる。
そしてyas-mal氏のコメントで、ようやく引用リプライの指摘が言及され、税金どころか団体の財源ではなく、寄贈された書籍を利用していると指摘された。

id:yas-mal 引用リプにあったColaboのWebページだと、「『難民高校生』1000冊贈ろうプロジェクト」で「英治出版様より昨年寄贈いただいた書籍を活用」とある。公金という根拠はどこだろう?(1000冊寄贈も引っかかるは引っかかるが)

さらに、どちらかといえばColabo批判もしているWinterMute氏が*3、すぐ後のコメントで元ページにリンクして、後述のデッドストックの可能性にも言及した。

id:WinterMute これか https://colabo-official.net/okurou/ 企画で送ったなら問題な……いや出版社から1000冊はなんだそれ感あるな/追記:数十万部売れてるなら全然ある(売上情報は見つからず)けど、たぶん倉庫のデッドストックかな?

さすがにこれ以降は林氏に懐疑的なコメントも増えているが、根拠なき断言を擁護して、情報開示を求めるようなコメントも散見される。

id:brain-owner yas-malコメ『公金という根拠はどこだろう?』→「公金ではないという根拠」をテメーが示せよ。子供じみた事書いてんじゃねーよバカフェミ

id:yujimi-daifuku-2222 何が事実かは情報が開示されれば自ずと明らかになる筈だったのですが、そこであののり弁だもの。/暇な人のノリについて行けないのはまあ分かりますが、あの黒塗りを見て個人情報だから問題ないと擁護するのも大概よ

id:lbtmplz 公金、公金じゃない、どっちか確証を持てる根拠は誰も出せないのであった…

そもそも元資料から読みとれないことを断言するべきではないし、根拠なき断言を他と同等の一説としてあつかうべきではないし、先行する指摘を無視して相対化することは虚偽への加担になる。
雪印北海道バターめぐり悪質デマが拡散 SNSで不安の声、メーカーは完全否定「対応を検討中」: J-CAST ニュース【全文表示】

「この有名な雪印のバターは、表にも裏にも書いてないけど、実は30%マーガリンが入っています。完全に騙している」――。

一般のツイッターユーザーが2022年12月19日、雪印北海道バターのパッケージ写真とともにこんな書きこみをして広く拡散している。


たとえ指摘を知らなくても、書名と団体名をくみあわせて検索すれば、あっさりColabo公式サイトのページを見つけることができる。
『難民高校生』1000冊贈ろうプロジェクト!無料で書籍をお贈りします。 – 一般社団法人Colabo(コラボ)

英治出版様より昨年寄贈いただいた書籍を活用し、仁藤による直筆メッセージを添えて、1000冊を10代の方に贈ります。通常1冊400円ほどかかる送料は、Colaboが負担します。

仮に送料が税金であってもColaboに利益は発生しないし、そもそも団体が負担しているという記述なので税金がつかわれていると読むべきではない。
前後して、なぜ英治出版が寄贈したのか理由がうかがえる記述もある。たしかにWinterMute氏が指摘したようにデッドストックの可能性は高そうだ。

学生時代にまとめた著書『難民高校生』。2013年に仁藤が企画を持ち込んだ英治出版から出版され、2016年に筑摩書房から文庫になりました。

林氏は団体が購入したという認識でうらやんでいるが、そもそも数年前に出版された単行本を文庫化された後に配っていたわけだ。


いいなあ。
もし1つの団体から1307冊も買ってもらったなら、私の本も一瞬でさらに増刷決定だ。

単行本を無料配布すれば宣伝効果があるかもしれないが、文庫本の売上げが落ちる可能性を覚悟した啓発運動と考えることもできる。
一般的に物理書籍の印税は刷った時点で発生するという。文庫化された単行本を配布しても増刷にむすびつく可能性は低いだろうし、そうなると著者に直接的な利益もない。


いずれにしてもColaboのプロジェクトは出版社の協力をえた寄贈の一種であって、林氏がやりたいなら明日からやればいい。
寄付を利用したり身銭を切って書籍を配布する啓発事業はColabo以外でもおこなわれており、良し悪しは別として社会運動のたぐいではまれによくある。
子どもたちに「医療の知識のワクチンを」 図書館へ寄贈プロジェクト

ネットや書店に並ぶベストセラー本のなかには、根拠があやふやな医療情報も散見されます。病院の図書室で働く女性が、根拠のある医療情報をテーマにした子ども向けの本を、学校や図書館へ贈る活動に取り組みました。

今回もまた、さして特異でもない活動をColabo固有の活動とみなして、無知から疑惑の根拠としてあつかう典型に見える。
窓口につなぐことを支援実績に数えることが支援団体の疑惑とされることに、どうしようもない無力感をおぼえている - 法華狼の日記

携帯電話の没収がColabo固有の問題になるという発想は、一般的な支援活動への知見が欠落している結果でしかない。

そして根拠なきツイートひとつを信じた林氏やそれを考慮にあたいする意見と考えた人々には、衆院議員の細野豪志氏がツイートで紹介した書籍の言葉をおくりたい。当該書籍は未読だが、一般論としては正しいとは思える。


林智裕氏は著書で「(デマは)知っている人や権威者・有名人からその話を聞いたなどの理由から大勢の人々に事実として信じられていく」との分析を紹介している。原発事故やコロナの例を挙げるまでもなく情報災害の被害は甚大。やはりデマを発する者の責任は問わねばならない。

*1:はてなアカウントはid:kuuhaku2

*2:もちろんそれらのコメントに問題がないわけではない。たとえば確認した時点でトップコメントだったid:kihiketufuwabe氏は、「事業費で自著を購入してばらまくのって一般的なの?信じがたいんだけど/Colaboの公表資料・報告資料が実態とイコールではない(Colabo弁護団)ので、事実か確認しにくいんですよね。情報公開請求しても黒塗りらしいし」と、根拠なく断言をした側とColaboのどちらに説明責任があるかを混同している。

*3:hokke-ookami.hatenablog.com