法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

窓口につなぐことを支援実績に数えることが支援団体の疑惑とされることに、どうしようもない無力感をおぼえている

仁藤夢乃氏の支援団体Colaboの検証をしたいのであれば、無料ピル事業についても一般的な支援事業との比較は必要 - 法華狼の日記

バズフィードの記事を読めばわかるが、無料ピル事業は医師の宋美玄氏のおこなう支援であって、あくまでColaboは報道時点でただひとつの協力団体だっただけ。
「ピルは高い」「お金がない」…無料だったらちゃんと飲む?支援を始めた産婦人科医が見た女性たちの現実

産婦人科医の宋美玄さんが昨年度から、無料でピルなどを提供する「無料プロジェクト」を始めています。
手応えを感じた宋さんは、一緒に取り組む女性の支援団体や医療機関、資金提供者を募っています。

現在のColaboに対する「検証」は、Colaboにかぎらない支援事業の全体像をきちんと視野にいれようとしていない。それゆえ評価するための基準が欠けているし、特に隠されているわけでもない説明すら目に入らなくなっている。

上記の9月16日エントリの注記で言及したkuzumimizuku氏が、はてなブックマークで最初にコメントしていた。はてなスターもいくつかついている。
[B! 男女] 仁藤夢乃氏の支援団体Colaboの検証をしたいのであれば、無料ピル事業についても一般的な支援事業との比較は必要 - 法華狼の日記

id:kuzumimizuku 『「タダでもらえるよ」はできない』→同額を団体に寄附という形をクリニックは"持ち出し"と表現("同額"は必須?寄附=持ち出し?)、団体は"支援実績"と表現(戻るのに?)してる点が「ありなの?」と思ってます。

上記のような主張をするからには、相談や窓口へのつきそいに時間も労力もかかることにkuzumimizuku氏は思いがいたらないのだろうし、無料ピル事業の協力団体を募集しているバズフィード記事の引用も読めていないのだろう。
おそらく支援対象者を窓口につなぐこと自体の困難さも理解できていない。9月15日エントリでColaboの報告書から引用した部分に、その問題もきちんと言及があるのだが*1
仁藤夢乃氏の支援団体Colaboがバスカフェで提供している食品が一食2600円という計算は、さまざまな意味で誤っている - 法華狼の日記

公的支援に繋がらない少女」のために、交流よりも居場所をつくることを優先した事業であり、シェルターでの食事と違って意識的に介入をさけている。

自己責任論の中で「自分が悪い」と思い込み、声を上げられずにいる人もいます。「相談」や「支援」という言葉や行為に抵抗感を持つ人も少なくありません。

利用してもらいやすいように、大人が「してあげる」場所ではなく、「少女たち自身の場所」として、気軽に立ち寄り、セルフサービスで、自由に過ごせる雰囲気を大切にしています。

金銭や物品などを贈ることだけが支援実績になるわけではない。窓口を教えたりして福祉につなぐことを助けたり、より専門的な支援団体を紹介したり、あるいは相談するだけでも一般的には支援なのだ。


また、kuzumimizuku氏のはてなブックマークを見ていくと、シェルターに入った時に携帯電話を没収管理することが事実であれば問題であるかのようにコメントもしていた。
[B! 増田] Colabo副代表理事、稲葉隆久氏について

体験談が出てこない件は、最近見た(これも真偽不明だが)「施設入所時スマホ没収」を思い出した。想像で全部黒く見えてしまうのも危険だけど、見えてる(公式に発信されてる)情報だけでも感覚としては危うい印象。

これもまた冒頭エントリで最後の段落で書いたことがそのまま当てはまる。評価するための基準が欠けているし、特に隠されているわけでもない説明すら目に入らなくなっている。
実際にはシェルターでの携帯電話没収は公的施設でも規則化されている。さすがに一律の禁止は見直しがはじまっているが、それも2019年からで、Colaboがシェルターを運営しはじめた後のことだ。
一時保護のDV被害者、携帯電話OKに ルール見直しへ:朝日新聞デジタル

厚生労働省は、DV(家庭内暴力)やストーカーなどの被害者を一時保護する際、携帯電話やスマートフォンの使用を禁止している現在の運用ルールを見直す。

携帯電話やスマホのGPSなどで居場所が加害者に特定されないよう被害者からスマホなどを預かるなどし、使用を禁じている。

朝日記事には書かれていないが、他の入所者などの匿名性を守るためや、精神が不安定になった被害者が加害者と連絡をとる問題などをさけるなど、他の理由もある。
もちろん現在はスマートホンが生活に重要なインフラと認められ、上記のように見直す動きもある。しかし没収する理由がなくなったわけではなく、官民ともに葛藤のなかで没収管理もおこなわれている。
たとえば現在でも児童相談所の一時保護シェルターはインターネットやスマートホンで自由に外部と連絡できるわけではなく、全面的な禁止か制限付きで使用するようになっている*2
【現役職員さんに聞いてみた】一時保護所の生活 | たすけあい|社会的養護専門情報サイト

基本的に外部の人に連絡できるような物は持ち込めないことが多いです。

よって一時保護所にいる間はパソコンやスマホを使うことができません。

葛藤を知ったうえで制限するべきではないと主張するのなら、それはそれで間違いではない。たとえ関係者の負担を考えても、形式的な選択肢の増加が実際には自由の縮小につながるとしても、自由が望ましいという心情までは共感したいところがある。
しかし、携帯電話の没収がColabo固有の問題になるという発想は、一般的な支援活動への知見が欠落している結果でしかない。それもただの無知ではなく、注目されたツイートへのはてなブックマークでも指摘があるのに、その情報が目に入っていないという問題だ。
[B! あとで読む] ポルハバ君🔞微工口❌SNSバズらせ経営者 on Twitter: "仁藤さんのColaboのシェアハウスに一時居住した子から聞いたんだけど、入居の際にスマホが没収されて外部とやり取りできないし支払いや自立のために風俗求人探すこともできず、風俗面接用に住所欄にシェアハウスを書いて良いか聞いたら風俗を… https://t.co/ZFiWO4RMqE"

id:oka_mailer RTにもあるがDV加害者と連絡取り合って居場所がバレたりすることを防ぐ目的で携帯電話を預かったりはシェルターではよくある対応らしいし、風俗に就職させちゃったらそっちのが貧困ビジネスっぽくないか。

id:nenesan0102 行政の運営するDVシェルターとかもスマホは取り上げられるよ。場所がバレて殴り込まれたら他の人にも迷惑がかかるし。

すでに指摘されている情報がColaboの疑惑を主張する側で共有されず、説明に労力や時間が無駄にかかるだけの不当な批判が流通しつづけて、もし妥当な批判があっても埋没させてしまう。それが第三者から見ても無力感をおぼえさせるし、Colaboにかぎらず支援団体が社会に説明する意義の見えなさにもつながってしまっている。

*1:引用時、「」という説明がある」を正確な引用のため削除し、あわせて元エントリも削除した。ちなみに9月14日エントリで言及した仁藤夢乃氏と坂爪真吾氏の対立は、まさに支援につなぐための心理的な障壁をどのようにとりはらうかが論点のひとつになっている。

*2:ちなみに、公的な一時保護施設における個室の比率などを見れば、9月15日エントリで紹介したように個室を新設することが好意的に報道された意味も少しはわかるだろう。