声優ラジオのMCとして活躍する柚日咲めくるには、重度の声優ファンという裏の顔があった。それゆえオーディションにおいて自分より他人の配役を願ってしまう性格に悩みをかかえていて……
2022年6月に発売されたシリーズ最新刊。若手コンビ主人公から初めて視点を変えて、公私をわけるために周囲から距離をとろうする先輩声優の物語が描かれる。
今回はいつも以上にラジオ重視でアニメのアフレコ風景はほとんどなく、主人公コンビの百合営業百合も接点を目撃しない第三者視点では控え目。声優ガチ恋勢の女性声優が主人公だが、どこまでも重度のファンという感じで*1、相方との関係も同期で残れた数少ない同志という雰囲気で、いつもより百合ライトノベルらしくない。
そこでファンの心情をたもったままプロフェッショナルでいることはできるのか、いわゆる「推し」が辞めていく痛みがどのように仕事に反映されるか、よく供給過多といわれる現在の声優シーンにあわせた仕事小説として読みごたえはあった。ベテランのようで内心はファンの視点で行動しているので、あくまで業界外の意識でいる読者としても理解しやすい。
若手トップクラスが過労で挫折した4作目*2とちがって、仕事がえられない状況からの廃業はありふれた出来事。さらに視点キャラクターが声優には思いいれがあっても作品への愛着は語らないため、おそらく作者が意図しないドライさがある。
ただ、アイドル的な受容がされている女性声優の視点で、若さが重要な基準のひとつとして語られた部分は、どうしてもグロテスクに感じてしまった。この小説の問題というより芸能や社会の問題なのだろうが、あまりアイドル的な声優の楽しみを知らない立場からすると価値観にのれないところがある。
演技面で活躍する声優が目標とされる局面もあったし、今回ほど仕事小説に移行したなら、ファミリーアニメで活躍する高年齢のベテラン声優や、声優に近しい芸能として舞台劇で活躍する方向性なども読んでみたい。まずは未成年の主人公コンビの本筋ドラマを片づけてからになるだろうが。