法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『声優ラジオのウラオモテ #06 夕陽とやすみは大きくなりたい?』二月公著

大規模プロジェクトのユニットメンバーに抜擢された歌種やすみと夕暮夕陽。さらに先輩声優や新人声優が参加するなかで、それぞれ分割したユニットのリーダーをまかされることに。そしてあくまで企画としての競争がはじまるが、歌種と夕暮はたがいをライバルと思い、本気で競いあおうと周囲を引っぱるが……


2021年12月に発売された、女子高生の声優コンビを主人公にしたシリーズ。ユニットにわかれていることもあり、過去より歌種個人によりそい、その視野のせまさもふくめて青春小説らしさがあった。

半年前に出た5作目では制作トラブルつづきのアニメ現場が描かれたが、そこで示唆されていた同時期の大規模イベントにおけるトラブルを描く。
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新登場したのは元人気子役の小学生声優の双葉ミントと、生活を優先して実力をセーブする年上新人声優の御花飾莉。その設定から思い出されるのが主人公コンビ、子役としてキャリアをスタートした夕暮と、母子家庭で育った普段の顔を声優仕事では隠している歌種だ。
シリーズ主人公の鬱屈や停滞を抽出したキャラクターたち。さらに双葉のとある問題行動の原因が、シリーズの過去作で歌種がくりかえした無茶とそっくり同じ。作中でも主人公コンビの過去の暴走と御花が重ねあわせて、看過した責任を厳しく糾弾する。歌種のもうひとつの可能性である御花が決定的な批判をつきつける構図と気づけば味わいが増す。


1作目のクライマックスからくりかえされた、情熱をもって周囲をまきこんで無茶をして課題を乗りこえる若さだけの物語。このシリーズは心身を削る努力ばかり賞揚され、それによる問題の解決は前作でも引っかかりをおぼえた。
しかし今回はクライマックスにおいて、厳しい状態でもあえて耐えて休む意味をしっかり描いて、いったん立ち止まった。瞬間瞬間に輝いて燃えつきるだけではない、小さくとも継続して光りつづける意義。前作の対比で今作を用意していたのなら、シリーズの流れも理解できる。
おかげで、きちんと現代的な視点がある仕事のドラマとして読めるようになった。あくまでエクスキューズにとどまるか、シリーズのターニングポイントになるかまでは、次作を読むまではわからないが。