法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『相棒 season21』第8話 コイノイタミ

ローリスクローリターンの堅実な投資をもちかけて富裕層の客が多かった青年が撲殺された。青年の死体の下には「えつ」に見える血の文字が隠され、ダイイングメッセージと思われた。かつて青年が捕まえたひったくり犯「しのづかてつろう」の下の名前と一致するが……


森下直脚本で、ひったくり犯の妻と伊丹の恋愛的な関係と、富裕層向けに仕事をしていた被害者の事件を同時並行で描く。
ダイイングメッセージをつかったミステリでありがちな、厳密さに欠けた推理が延々とつづく。そしてダイイングメッセージの真相は、特殊な知識をもっていないと解読できないタイプで、その知識も解決編で初めて提示するという遅さ。人間関係や隠された事件についても後出しの証拠が多くて、謎解きドラマとしては感心できなかった。
ひねりがないまま終わった前回*1と比べて、きちんと刑事ドラマらしいツイストを入れて後味悪く終わったのは良いが、そもそもふたつの事件に関連性があまりない。被害者とひったくり犯が子供時代に田舎で近くに住んでいたという情報ひとつで、ひったくり犯からの救出をよそおって富裕層に近づく自作自演から、富裕層向けの怪しい商売で協力していたことまで推理してしまった。いくらなんでも人間関係の接点が脆弱だし、その接点から背後関係を解明するには飛躍しすぎている。
伊丹が恋愛感情で暴走したというより加害者に機会をあたえたかったという真相は悪くないし、そこで杉下が正面から説教した結末も良かったが、今回のような物語はあえて尺をひきのばして、謎解きよりも人々の苦悩や迷走を描くドラマにしたほうが良かっただろう。良くも悪くも古い刑事映画のように。