メディアミックス企画『ティアラ☆スターズ』のライブ対決に向けて、歌種やすみと夕暮夕陽は協力して、チーム一丸になろうとする。しかし自主練習をしようとしても、年長ながら新人の羽衣纏は距離をとる。アイドル活動は必要最低限にやって、声優の本業に力をそそぐべきだと考えているらしい……
TVアニメ化も発表されたライトノベルシリーズ8作目。2023年1月に発売された。
あくまで結束力を高めるためとはいえ夏休みに同居生活をおくったり、かなり性的な行動をとったりもするが、意外と百合作品らしい印象はうすい。
すでに倦怠感あるカップルのようですらあり、作中でも意外なほど心情を動かさなかったと位置づけられ、流されるように終わる。
本筋は、演じるキャラクターと声優が同一視されがちで、むしろ運営もライブイベントなどでは積極的に売りにする……そういう「アイドル声優」というアイドルだけでも声優だけでも成立しない職業ならではの物語。
劇中で指摘されるように今回ピックアップされたサブキャラクター羽衣と、メインキャラクター夕暮の声優への思いがかさなりあい、アイドル業への忌避感という問題がたちあがる。そして羽衣の問題が完全に解決されたかどうか不明瞭な状態で夕暮の問題も不明瞭になり、クライマックスになだれこむ。
今回はシリーズではじめて夕暮視点で物語がはじまるが、やがて行間をあけて歌種視点の物語も挿入され、三人称のまま多視点が混在していく。ライトノベルでは群像劇的なストーリーで時々見かける語り口だが、この作品ではクライマックスのカタルシスを作りだすための必然的な手法だったことがわかる。種明かしよりも前に気づくことは難しくないし、その種も『エクソシスト』かよ!とツッコミを入れたくなるが*1。信頼しあっているパートナーでなければ許されないだろう。
ただいかんせん、この小説はあまりライブイベントの描写がうまくないな、ということもあらためて感じてしまった。
ライブをもりあげるためコンテンツのキャラクターを演じるギミックは良かったが、歌や踊りのうまさや観客のもりあがりは設定をならべて平凡な形容で説明するだけ。
たぶん小説という媒体の制約でしかたないところもあるし、だからこそTVアニメ化されれば現実の声優の歌とアニメーションでおぎなえると期待はしているが……
*1:同じ百合ジャンルに入るだろう作品で、ちょうど先日に放映されたエピソードとも似ている。 hokke-ookami.hatenablog.com