法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『声優ラジオのウラオモテ #04 夕陽とやすみは力になりたい?』二月公著

正反対のキャラクターをもつ声優コンビが、堂々と不仲を公言してつづいているラジオ番組。
面白がられてはいるが、最近は聴視者から不安な声もよせられるようになった。
一方、声優コンビが世話になっている先輩声優が、少しずつ変調をきたしていた……


2021年2月に発売されたシリーズ4作目。未成年の主人公コンビではなく自立した先輩世代にスポットをあてて、不安定な職業の挫折や葛藤をライトな読み口で描いていく。

2作目*1と同じように前半と後半でドラマが分離しているが、今回は後半の事件が重たくかつ生々しさが強くて、主人公コンビが蚊帳の外でありつつも全体のバランスはとれていた。
前半の小さな事件*2に後半の大きな事件を解決する糸口がある構成は、TVアニメでよくあるカルタプロット*3を思わせ、アニメ声優というモチーフとなじんでいる。


ただ読みながらどうしても気になったのが、先輩声優の体調不良描写。仕事のとりすぎによる過労が原因ではあるが、発熱をともない身動きができなくなる症状で、出版された2021年に読むと新型コロナ禍を連想せずにいられない。あるいはそこから着想して今回の展開になったのかもしれない。
しかし声優業に支障をきたす肺炎が蔓延している今、医者にかからず後輩に自宅で世話をしてもらう描写に引っかかりがないといえば嘘になる。その引っかかりから連鎖するように、別の先輩声優と鍋をかこんで会食する場面にまで違和感が出てきてしまう。
新型コロナが遠い過去になった未来に読んでも違和感が出ないことをねらった描写なのかもしれないが、ここはあえて同時代性をとりこんだほうが記録として読みつぐ価値が生まれたのではないか。


さらにいえば、ワクチンだけでは全世界的な蔓延による変異に対応できず、しばらくは日常生活において移動制限や高性能マスクや頻回検査が重要になると考えられている。声優業も大声を密閉空間で出す仕事ゆえの対策に追われ、さまざまな変化が起きているという。
マスクが不要な社会にもどるよりも、このまま感染症をさける文化として定着していく可能性も高いだろう。むしろ未来になるほど読んで違和感が生まれることになりかねないのではないか、と思った。

*1:hokke-ookami.hatenablog.com

*2:作中でこそ不仲営業は不安視されているが、読者としては夫婦漫才を見ているような気分である。

*3:www.style.fm