法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『It's a Rumic World』「うる星やつら~ザ・障害物水泳大会」「らんま1/2~悪夢!春眠香」「犬夜叉~黒い鉄砕牙」

週刊少年サンデー50周年記念の高橋留美子展のため、2008年に制作された各30分ほどの新作アニメ。
2010年1月にDVD-BOXとしてパッケージ化、同年10月に各巻がDVDとBlu-rayで発売された。

犬夜叉』のサンライズが制作し、『らんま1/2』のみアニメーション制作をスタジオディーンが担当。


『It's a Rumic World うる星やつら~ザ・障害物水泳大会』は、原作の障害物水泳大会エピソードに違うエピソードも足して、過去にアニメ化されていないキャラクターまで登場させたイベント向けオールスター作品。

米たにヨシトモ監督が、3作品のキャラクターが出会うオープニングにつづけて担当。押井守監督時代にも降板後にも偏らない、バランスの良いドタバタギャグが時間いっぱい楽しめる。意外にこの原作では初めてのキャラクターデザインという土器手司の絵柄も美麗すぎずコミカル。
かなり古い作品なのに続投する声優がかなり声質を維持できていて、メインキャラクターできびしさを感じたのは小原乃梨子*1三田ゆう子くらい。いろいろな意味で限界までがんばったイベント作品になっている。
物語は、いかにも古い作品らしくセクハラパワハラで笑わせようとしながら、オチで肩すかしすることで現在でも見やすくしていることも良かった。主人公が水着の女子をナンパする場面こそあるが、着替えをのぞいたりする古臭い性的サービスはいっさいない。


『It's a Rumic World らんま1/2~悪夢!春眠香』は、ヒロインが眠らされるエピソードを原作としつつ、ヒロインが見ている夢もアニメオリジナルで映像化することでイベント作品らしく多くのキャラクターが登場。

もりたけし監督は、過去にTVアニメのコンテ演出で少し参加。しかし気負わず普通によくできた1エピソードにしあげていた。耽美さが増している中嶋敦子が、初キャラクターデザイン作品に向きあうことで、コロコロ丸っこい絵柄に戻したバランスも面白い。
性転換を題材にした作品でホモフォビアなギャグが終盤にあるところは気になったが、アニメーション作品としては一番楽しかった。松竹徳幸松本憲生鈴木博文、いまざきいつきといったアニメーターが参加して、残像を多用したコミカルな動きやキビキビしたアクションが楽しめる。あまり作画に力を入れないスタジオディーンだが、良いアニメーターと縁が深いので、こうした単発作品ならばスタッフがそろうこともある。
あと、主人公が女性化した姿ならば、イベント上映作品で2008年でも正面から乳首を描写できることも興味深かった。色指定がリアルな茶色で、アニメ記号としては男性の乳首に近いという意図なのだろうか。ちなみに同じイベント上映の『うる星やつら』では、ウォータースライダーの出口で主人公が停止する場面で、横から見たカットに影で乳首が作画されていた。


『It's a Rumic World 犬夜叉~黒い鉄砕牙』は、原作では1巻分ある重要なエピソードを映像化。主人公の兄が敵の策略によって主人公と戦うことになり、それぞれがもつ武器の力を引きだそうとする。

イベントの5年前にいったん終了したTVアニメのスタッフが続投した作品で、イベントの翌年に完結編として原作の最後までTVアニメ化をおこなうこととなった。そのため既存のアニメ作品と良くも悪くもギャップが存在しない。
残念なのは、ギャップがなさすぎてイベントらしいスペシャル感がまったくないこと。長大な物語の1エピソードを映像化しただけで、作品に思い入れのない観客へ因縁の対決の重みを感じさせる工夫がまったくない。
アクション作画が特に素晴らしいわけでもないし、何もない山中と異空間だけが舞台なので情景も変化がとぼしい。因縁の兄弟対決といっても中途の1エピソードなので決着がつくわけでもない。

*1:直前までリメイク版『ヤッターマン』のドロンジョとして活躍できていたが、それを考慮しても2005年の『ドラえもん』リニューアルは限界だったことを実感した。