法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『虐殺器官』

特殊部隊で戦いを続けるシェパード大尉は、ジョン・ポールと呼ばれる謎の男を追っていた。システム的に感情を殺した兵士としてさまざまな作戦に向きあいながら、シェパード大尉はポールの真意を知ることに……


伊藤計劃のデビュー作*1を、ノイタミナのProject Itoh企画で2017年にアニメ映画化。『ガサラキ*2村瀬修功が監督として脚本とコンテを単独で担当して、アニメ用キャラクターデザインを兼任。
「Project Itoh」

当初は他の企画作品*3と同じ2015年に公開する予定だったが、制作会社マングローブが倒産*4ノイタミナ山本幸治プロデューサーが立ちあげた制作会社ジェノスタジオがひきついで完成させた。


まず映像だが、制作トラブルが響いたのか、上下差が大きすぎる。絵の精緻さが求められるデザインやテーマということもあって、実質よりも悪く見える。特に序盤が最も厳しく、近年のミリタリアニメでは残念な出来。
しかし中盤の少年兵を虐殺する描写や、終盤の潜入描写などは、FPSゲームのようなPOV視点も珍しく、手描き作画と3DCGの調和もとれている。制作体制を立て直せたおかげか、尻上がりに良くなっていく。
原作では特に印象に残らなかった架空兵器群も詳細に描写され、アニメでは珍しく非人型兵器が活躍する戦場が、小説として発表された原作よりも個性的に感じられた。
また、冒頭の演出などで、映画そのものが劇中の設定が反映された作中作のように見えるところも興味深い。これも一種の映画映画といえるか。


映画全体としては、良くも悪くもミリタリ調の近未来SFアニメとして標準的。原作と比べておふざけが減っている。
主人公が村瀬作画らしい整った顔立ちとなったことで、原作と違って真面目に見える。原作のエピローグにあたる部分も大きく削られて、ひとつの真実を告発して広める場面が結末。映画だけを見ると、世界を冷笑することなく、主人公なりに社会へ真摯に向きあった印象すらある。
良くも悪くも原作と比べて主人公の増長や憎悪が弱まった感じで、ぐっと万人が理解しやすい作品になっていると感じた。それゆえ原作の愛読者の批判もあるらしいが……

*1:『虐殺器官』伊藤計劃著 - 法華狼の日記

*2:助監督的な立場につく予定だったらしいが、作品にはキャラクターデザインと第1話のコンテに名前を残すのみ。演出家としては原案や一部の脚本まで担当した監督作『ウイッチハンターロビン』が実質的なデビュー作か。

*3:『屍者の帝国』 - 法華狼の日記 『ハーモニー』 - 法華狼の日記

*4:制作会社マングローブ倒産の報 - 法華狼の日記