法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『世にも奇妙な物語 '22秋の特別編』

番組改編期に恒例の、フジテレビ発オムニバスドラマ。今回はVFXの見どころやトリッキーな構成もなく、どれも良くも悪くも深夜ドラマのような淡々としたつくりだった。
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「元カレと三角関係」は、チャラい彼氏と生活しているミカの部屋に、小さなロボットがやってくる。それは入院中の元カレが遠隔操作していて……
ロボットごしの肉欲ではない関係がむすばれる奇妙なラブコメ。原作はまったく知らなかったが、コミックエッセイあつかいのSF短編集の一編のようだ。

2005年から『ドラえもん』のジャイアンを演じている木村昴がロボットの声を演じているだけでなく、元カレの写真にもつかわれているところは楽しい。
しかし実在のロボット玩具をつかっている映像に説得力が欠けている。感情表現は見事だし、それにつかうアームの自由度を見れば細やかな仕事をおこなっても映像的なリアリティはたもたれるが、さすがに小さすぎて高いところの作業をするには説得力がない。車輪で移動しているようだが、たとえアームで補助しても段差などは超えられそうにない。
そこから実はロボットが遠隔操作ではなくAIによる再現だとか、いっそのこと幽霊だとかいう可能性も考えたが、真相は寝たきりの状態で遠隔操作しているという中途半端さ。今カレが印象に反して親切心を発揮したことは良かったし、結末もこのドラマにありがちな無理にひねったオチで台無しにするよりは良いが、あまりに意外性がなくて凡庸としか思えなかった。


コンシェルジュ」は、夫と離婚して娘とマンションに住む女優が、奇妙なコンシェルジュに生活を助けられる。コンシェルジュはきわめて有能だったが生活を侵食していき……
いかにもこのドラマらしい奇妙な味の物語。しかしちょっとした言葉尻から主人のために行動するように見せて破滅させていくパターンにとどまり、意外性はあまりない。
しかもオチを見ると、どうも制作者はどんでん返しを意図しているようだが、まったくそう感じられなかったので首をひねった。母と娘のそれぞれの指示をコンシェルジュが聞きつづけていたのに、あたかもコンシェルジュは娘を優先していたかのような絵面を最後に見せる。この結末を衝撃的に見せたいのなら、娘の言葉をコンシェルジュが聞く場面は削って、母娘が同時にいる場面を回想するとコンシェルジュは娘を見ていた……といった描写にでもするべきでは。


「わが様」は、家庭をかえりみないデザイン会社の社長が、母の葬儀で実家に帰った時、蔵の中で奇妙な少年の姿を見る。それは一種の神様だという母の言葉を思い出したが……
最初に「わが様」が登場した時は少しホラーチックだが、社長がまったく怖がらないこともあってホラー感は早々に薄れる。「わが様」の正体も、何を求めているかも予想の範囲内で驚けなかった。母が会っていた「わが様」が少女だったという情報を見るまでもない。
ただ、いつものこのドラマならば主人公がわが様に拉致されて終わるような後味の悪いオチにしたかもしれないところ、普通に良い話で終わらせたところに新鮮味を感じた。


「ちょっと待った!」は、レストランで告白しようとしていた男が、奇妙な状況におちいる。席を外して戻ってきた女性にいざ告白しようとしたところ、なぜか制止されたのだ。しかしその女性はよく見ると老けている……
藤子F短編に出てきそうな一種のSFショートショート。というか、原作者が単行本で整理した『ドラえもん』の序盤とまったく同じシチュエーションである。そこからあらわれる男女が静止しあうリフレインも見おぼえがある。
しかしひとつのレストランに舞台を限定することで、同じ状況のくりかえしの差分が浮かびあがってくる。さらに横から第三者に介入させて……介入してきた時点で背景は予想できたが……今回のなかでは最もひねったオチで終わらせた。
よく考えるまでもなく登場人物はたいして成長していないし、開示された問題は解決していないわけだが、気軽なエンタメとして悪くない。