番組改編期に恒例の、フジテレビ発オムニバスドラマ。梅雨前から暑くなった現代だからか、全エピソードのホラー調が強め。
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ストーリーテラーのタモリはいつもどおり。サングラスとメイクごしにも老いていることが隠せなくなっているが、今回すべてのエピソードに永遠の命というモチーフが隠されていることを示唆したことで、キャラクターを演じて老いに抵抗する姿がテーマにそっている感じもあった。
「追憶の洋館」は、ひとりで滝を見た後の中年女性が山道で転落し、謎の洋館で記憶をうしなって目ざめる。そこは年齢も性別も格好もことなる住人がいたが……
主人公が転落した場面で最終的に樹木へ頭を強く打つので、死後の世界や臨死体験のパターンを念頭におきながら視聴した。もちろん主人公に罠をしかけるパターンも想定していた。
主人公が住人を殺害していく過去の記憶がフラッシュバックしたことで、早々に生者の物語ではないと確定する。さすがに真相はさらにひとひねりしていたが、想定していたパターンの延長線ではあった。
しかし生者ではないと確定したからこそ、住人が自室に帰ってから生まれる奇妙な不穏感や、かと思えば唐突に提示される衝撃的な姿など、ホラー的なショック描写が多かったことは良かった。
結末の客観的な視点で、主人公の狂気があくまで主観的なものなのか作中の現実なのか両義的に解釈できるところも悪くない。視聴者が好きな解釈を選べるだけの説得力が両方にある。
「友引村」は、友人が亡くなったと聞いて、大学生の男女が友人の故郷にいく。そこでは葬儀で人形を入れるような謎の風習がある田舎で……
ジャンル自体の構造に田舎差別がくみこまれている問題に目をつぶれば、いわゆる因習村の短編ホラーとしてオーソドックスによくできている。
TVドラマなりに山道いっぱいに立てた人形などで雰囲気を出しているし、見なれない葬儀に踊りのような滑稽さもあることが対比で不気味さを増す。
友人の身勝手な恋の告白がぎりぎり誠実な青年の暴走でありうるレベルで、人形の儀式が善意か悪意か判断しづらいことも不安感を生んでいた。
急転直下のオチはやや伏線が足りないし、それでいて前例があるので意外性も足りないが、お話としてまとまりはいい。
「人類の宝」は、グラフィティアートでうさばらしする青年が、謎の男に才能の保護と称して拉致られる。拘束下で高級な食事をあたえられた青年は創作を指示されるが……
いかにもこのドラマらしい極端な設定を導入した奇妙な味のエピソード。人間が貴重な宝としてあつかわれる寓話を、きちんと予算をつかった映像で見せていく。
グラフィティアートは専門家をつかったらしく最低限の説得力があったし、監禁された部屋の無機的で広々とした様子は素晴らしい。宝の争奪戦として無人の街で展開される銃撃戦や杖術アクションもスペシャルドラマなりの見ごたえはあった。
残念ながら展開の妙味は少なく、換気口をとおして別の部屋とやりとりした主人公のおちいる状況は誰もが予想できるだろうし、増長した主人公の最終的な末路は設定を聞いて最初に予想した絵面そのままだった。
とはいえ、このドラマシリーズのこのジャンルで、最低限のシリアスさをたもったまま無駄に茶化さないまま最後まで緊張感をたもったところは良かったと思う。
「週刊 元恋人を作る」は、オーダーメイドで設定した元恋人の実物大パーツが、定期購読でとどくという。企業セミナーの講師の人形をつくりはじめる女性だが……
今回はこれのみ原作アリ。見くらべると主人公が高校生から大学生に設定変更されていたり、ドラマ独自のオチを追加したりしているが、ほぼビジュアルからストーリーまで忠実に映像化しているとわかる。
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原作の床から上半身だけ生えている絵面をソファから上半身が生えている映像にしたり、古典的な特撮だが作品の雰囲気にあってて悪くない。シスターフッドなオチもリリカルな百合っぽさがある。
しかし主人公をつきはなした元恋人もまた主人公の人形を購入するというオチは蛇足。未成年にいいよられて困る原作とちがってドラマは学生をオモチャにしたニュアンスがあるとはいえ、執着するようになる要素が見えない。
たとえば主人公を元気づけた友人が帰宅して、主人公そっくりの人形を収納庫にしまいこむオチであれば、もう少し自然な流れになったと思う。リリカルなドラマを台無しにするオチではあるが。