法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『世にも奇妙な物語 ‘21秋の特別編』

恒例のオムニバスドラマで、今回はどれも原作のないオリジナル。
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冒頭でストーリーテラータモリが「生きて帰ることを前提とした航海などありえない」とコロンブスの名言を紹介したが、そこで「アメリカ大陸を発見した」と説明したことは感心しない。あくまでヨーロッパから到達しただけで先住民がすでにいたわけだし、奴隷狩りをおこなった侵略者の発言を現代でそのまま肯定的に引いて良いものだろうか。


「スキップ」は、かつて祖母に禁じられた開かずの扉の鍵をひろった青年が、謎の廊下をとおって時間を跳躍するが……
まず『ドラえもん』の「タイムワープリール」*1を連想し、そこから飛ばした時間の出来事の記録で主人公の顔が変わっている展開に何度か見た『ファイト・クラブ』ネタかと思ったら、さらにひねった展開を見せる。
主人公の兄がストーリーテリングに効果的。ささいな違和感の伏線となると同時に、飛ばした時間の主人公が兄の顔に変わる展開そのものがミスディレクションとして作用している。それでいてアイデンティティクライシスの物語としては一貫性があり、より深く強固になっている。
スキップするための怪しげな廊下のセットも雰囲気ある。しかし望まず閉じこめられる展開で窓から逃げられるのではと思ったら、逆にその窓から見える光景で絶望していくという、演出と美術が一体になった描写に感心した。そして『リング』や『呪怨』めいた俳優の動きで特殊メイクをつかわずとも恐ろしく感じさせる演出を、珍しく男優*2にやらせて成功しているところも珍しくていい。


「優等生」は、偏差値の低い高校にかよう少女が、住宅街に突如としてあらわれた神社で、優等生になれるよう興味本位で願うことにはじまる……
世界規模の超常現象を起こしながら、ミクロな家族の問題に感動っぽく収束していくパターン。ひきこもりを無理に外に出すことが肯定されたり、母の浮気を相手を遠ざけ父の収入を安定させるだけで終わらせたり、シリアスなドラマならば許せないが、後述のオチのおかげもあってシリアスのふりをしたギャグとして視聴できたので、一応は許せた。
数学の回答ミスからスカイツリーの異変がはじまり、回答を修正して異変が終わる展開から、人類の認識だけが変化するのではなく、世界の法則までねじまげる設定のよう*3。これでは算数のささいな問題を間違えるだけで宇宙の法則が乱れてカタストロフに発展しそうだが……
人口をたずねる設問が答案用紙の裏にあった急転直下のオチはベタだが、切れ味は悪くない。超常現象を終わらせる方法を主人公が気づいて急いで出ていったことで、気づかなかったことの説得力もある。


ふっかつのじゅもん」は、田舎の実家にもどった男が、息子とともにファミコンのカセットを見つけたことにはじまる。男がゲームを再開すると、子供時代に亡くなったはずの同級生があらわれ……
ホラー演出としては、息子の手が透明になっている映像は見せずに、急いでいる背後でわけのわからないことを訴えている描写にしたほうが好みだった。平凡なVFXを使っても、そこから川原で透明化する姿を見せればいい。
とはいえ、そこからタイムパラドックスを発生させる展開になるところは良かった。主人公の言葉によって死なせてしまった責任と悔恨のドラマになるし、親友の生存と妻との結婚のどちらを選択したいかのドラマにもなっている。
しかしファミコンのカセット端子に息を吹きかける描写は、それを本当はやってはいけないと注意も入れるべきだと思う。ゲーム会社の協力をえて本物のファミコンゲームを使用しているくらいなのだから。
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「金の卵」は、普通に買った何の変哲もない卵が、表面の殻をむくと金の卵が出てきたことにはじまる。それで幸運が舞いこむと喜んだ女性は、家族を恐れるようになるが……
幸運が舞いこむサプライズから一転してサイコホラー、そして謎の存在による精神的な托卵へと変転するストーリー。主人公が変調をきたしていく後半のホラー感、孤立感は良かった。
しかし15分未満の短編とはいえ、伏線が足りなすぎる。真相は見当がつくが、だからこそ新鮮味のかわりになる納得感がほしい。少なくともルンバくらいは序盤の日常風景にとけこませつつ印象づけをおこなうべきだった。

*1:hokke-ookami.hatenablog.com

*2:もともと『ちはやふる』のヒョロそっくりの容貌で驚愕された坂口涼太郎という配役にも助けられているが。

*3:後述のオチを無視すれば、スカイツリーは人工物であるし、人間の認識だけが瞬間的に世界的に変化して、科学の法則などは変化していないと解釈することもできるが。