法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ドラえもん』らくがきを撃(う)て!/正直太郎

「らくがきを撃(う)て!」は、のび太が外で寝ていた時、ジャイアンスネ夫が顔にラクガキをした。それを周囲に笑われて帰ったのび太は、ラクガキをする秘密道具でしかえしするが……
伊藤公志脚本、つくしやまコンテ演出。原作の「らくがきじゅう」は、しかえしをして満足した瞬間にやりすぎず終える、珍しいエピソードだった。一方で今回のアニメ化は、秘密道具をつかった西部劇のような展開へ発展していく。
原作は低年齢向けなので、ただラクガキをしあうだけの、良くも悪くも単調なつくり。今回のスネ夫ラクガキを書いて消すマッチポンプでお礼をもらおうとしたり、それを見たのび太ラクガキを増やして消すコストがリターンにみあわなくしたり、知恵比べの要素もある。
しずちゃんラクガキに参加して雲をキャンバスにしたり、公園を模様替えしたり平和な局面も途中ではさむ。そこからドラえもんの色変えで楽しむ展開から、たがいにラクガキを撃ちあう展開へ移行するわけだが……劇中で指摘されるように、そもそも痛みも何もないラクガキなので、撃たれても決着がつかない。銃撃戦で街がラクガキで満たされていく情景から、ゲームのスプラトゥーンから着想したのかもしれないが、ならばなんらかの決着をつける方法を考えてほしかったところ。
また、映像的なアレンジもあまり感心できなかった。たとえば見返すと冒頭の時点ではのび太の手の甲にラクガキがまったくない。ラクガキが見えるのは帰って自室にいる場面から。もし絵コンテ段階のアドリブだったのだとしても、さかのぼって冒頭にも追加してほしい。中盤の、ちょっと色彩を変えただけで小鳥が猫をおどろかす描写の説得力もなさすぎる。せめてイメージ的な目は、広げた羽に描くべきではないだろうか。それならば昆虫の擬態のような豆知識にもつなげられて、説得力も出てくるだろう。


「正直太郎」は、のび太の母である玉子の弟、玉夫が恋愛に悩んでいるという。気弱で思いを言葉にできない叔父のため、のび太ドラえもんは内心を公開する秘密道具をつかわせようとするが……
リニューアル直後の2005年にアニメ化された原作の再映像化。今回はリニューアル前からメインスタッフだったベテランのパクキョンスンコンテ演出。ほぼ原作に忠実だが、忠実なところとアレンジしたところで、どちらも欠点が目についた。
まず原作の段階からの問題だが、余計なことをしゃべる正直太郎を植えこみに隠して、四次元ポケットに入れない意味がわからない。たとえばアニメオリジナルでドラえもんのび太がバラバラで玉夫をさがす展開にして、のび太がもっている正直太郎を植えこみに隠すようアレンジしても良かったのではないか。
また、玉夫の相手が当時は言葉としては存在しなかったツンデレと呼ぶべきキャラクターなわけだが、原作では正直太郎をもった時点で明らかにされて、作中人物と読者の印象が一致する。しかし今回は正直太郎をもつ前から内心では玉夫に好意をいだいていると吐露する描写が入る。原作の女性キャラクターは時代のわりに気が強いことが多く、それが性犯罪などへの甘い意識を感じさせつつも現在でも男女描写が通用させているのだが、今回のようにアレンジされると女性キャラクターの印象が薄くなってしまう。もはや性格が悪いだけとしか感じられかねないツンデレをアレンジすること自体は理解できるが、それならば原作を超えて自立したキャラクターにしてほしいところ。