法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ドラえもん』架空人物たまご/ドラドラスパイ大作戦

前後とも大杉宜弘チーフディレクターがキャラ設定としてクレジット。柔らかくも原作のニュアンスをくんだシンプルなデザインが良かった。作画も力が入っている。


「架空人物たまご」は、さまざまなフィクションのキャラクターにたのみをきいてもらう秘密道具が登場。けん玉の成功を友人に見せるため、のび太は架空人物にたのんでいくが……
2007年に「おつかいは孫悟空、ぞうきんがけはシンデレラ」というサブタイトルでアニメ化した短編の再映像化。ほぼ展開は原作通りで、ちいさな親指トムが判子をとりにいく描写をじっくり見せたり、映像として楽しいディテールを増やす方向でアレンジしていた。他にママが活用するキャラクター数を増やして、調子の良さを強調。シンデレラの声で、ひさしぶりに能登麻美子のいたいけな演技が聞けた*1のも良かった。
ちなみに2007年版はしずちゃんにけん玉を見せに行く過程で、複数のキャラクターを足すという方向性でアレンジ。のび太の障害を増やすこと自体は悪くないのに、印象として単調さが増しただけだったのが残念だった記憶がある。


「ドラドラスパイ大作戦」は、のび太がスパイの活躍するドラマ*2に影響され、ドラえもんが秘密道具を出してやる。指令にあわせてドラ焼きや答案用紙を奪取していくが……
「スパイ作戦ごっこセット」というアニメオリジナル秘密道具で展開されるアニメオリジナルストーリー。冷戦終結後の冬の時代をスパイ映画が乗りこえて、復権しつつあることを感じさせる。スタッフは、若手ながらメインとなっている鈴木洋介が脚本で、2017年に監督を降板した善聡一郎が絵コンテというサプライズ。
ちゃんとスパイ作品らしい定番を遊びのレベルにスケールダウンしつつ、15分枠いっぱいにつめこみ、エンターテイメントとして飽きさせない。わたされたスパイグッズをどう活用して危機をさけるかという頭脳戦が、のび太ドラえもんのキャラクターにそったかたちで展開される。身近な建物をちゃんと立体的に攻略していく映像表現もよくできている。
あくまで子供向けアニメということもあってか、ただ秘密道具で悪事を成功させて終わらず、ちゃんとスパイ映画らしいかたちで帳尻をあわせていくのも良かった。それにからんで持ち物が入れかわるというベタベタな展開も、物語全体がパロディなのだから当然といっていい。そこで本物のスパイが登場することも、よくライオンが逃げたり強盗にニアミスする原作らしさがあって、作品世界を壊しているとは思わなかった。

*1:花咲くいろは』あたりから、気風の良い女性を演じることが多くなっている印象。

*2:映画のテレビ放映かと思ったが、公式サイトの説明では「スパイドラマ」。「架空人物たまご」「ドラドラスパイ大作戦」|ドラえもん|テレビ朝日